恋をしている

ぐちゃぐちゃと、ねばりけのある液体が泡立ち、オレの手を汚す。後から後から、指の間を伝ってくる液体に、オレは眦をきつくした。
大和さんは相変わらず無言だ。ベッドに背中を預け、身をひねって顔を枕に押し付けている。声を聞くことも、顔を見ることもゆるさないくせに、手の中のものだけはきつく張りつめて、だくだくとオレの手に気持ちよさを伝えてくる。
エロすぎだろ……。
「大和さん、こっち向いて……キスしたい」
大和さんが枕に押し付けていた顔をちらりと向ける。目じりが赤い。
人差し指で腹の内側を擦ってやると、大和さんの鼻から高い吐息が抜ける。
「ふぅ、んっ!」
「……すっげ……気持ちいいんだ」
「言葉責めのつもり? ……っ、いい、趣味して、ん……、な」
後ろに入れていた人差し指をゆっくり抜くと、大和さんは少し腰を上げ、尻を揺らした。指が抜けていくのを寂しがるような、せつない動き。
「そんなんじゃないけど。あんたの、すげえぐずぐずで……下までぐっしょり垂れて来てる」
片手は茎を扱くのに使いながら、もう片方の手で、尻の肉をなぞった。丸いフォルムを人差し指の背でつうとなぞって、鼠径部のくぼみに先走りのぬめりを広げる。
「っう……、くっ……バカ、塗んな……」
「大和さん、エロくて、かわいいから……」
「……そりゃ、どうも」
またぬめりが量を増し、オレの左手を存分に濡らす。右手の人差し指と中指でとんとんとリズミカルに亀頭を叩くと、ぐちゃぐちゃの液体が糸を引いた。
「っ、ん、ぅ、……っ」
「……中、ローション足すぜ」
「っは……それ、苦し……ん、だけど」
「その方が痛くないから……多分」
キャップを外して転がしたままのローションは、ベッドにかなり中身をこぼしていた。いつか大和さんと繋がる日を思って準備してあったものだ。ベッドの下からこれを取りだした時、大和さんは緊張したように肩を縮こませ、目を逸らした。その火照った頬と濡れたような目じりがいっそうエロくて、タンクトップを脱ぎ捨てながら、ため息をついてしまった。
大和さんがやたら顔を赤くしていたのは、自分で下着ごとズボンを下ろすとき、オレに育てられたちんぽが引っかかるのが恥ずかしかったからだと思う。
右手にボトルを拾い上げ、ベッドに零れてしまったぶんは左手に取って、大和さんの腹筋の辺りにべしゃりと塗る。
「ひっ! 冷た……!」
「苦しいなら、こっちに集中してて」
そのまま左手を大和さんの胸の方へと滑らせる。大和さんは別に乳首では感じないと言っていたのだが、いざ指の腹で潰したり挟んだりぴるぴると弾いて転がしてみたりすると、おかしいな、と困惑した顔で甘く脇を締めていた。
「ぬめぬめ、気持ちいい?」
「……っ、変な、感じ……」
「でも、涙目、すげえよさそう。……萎えてないじゃん」
「……ふ、ぁ……っく、ミツが、しつこ、い、から」
「そりゃ、あんたを苦しくさせないためだぜ? しつこくもなるよ」
ローションの先を尻の穴に当て、ぐっと握って中へ液体を送る。ほんの少しの量でも苦しいらしい、大和さんが眉をしかめた。ひそやかだった大和さんの呼吸が、ハアハアと上がり始める。
中指を、後ろにあてがう。ローションと、後ろまで垂れてくる先走りのおかげで、指は簡単に入った。驚くほど熱い肉壁にすっぽりと指先を包まれ、指を奥に進めるたび、その異物を押し返そうと、大和さんの中がびくびく動く。
「……っ、は……はぁ……ぁぐ……」
「苦しい?」
「平気……自分の心配してろよ。すげえ苦しそう」
 大和さんが、オレの股間に手を伸ばした。さっきオレに押し倒されるまで尻をすりつけていたところを、指で撫でてくる。
「ば、か、触んなって。今日は挿れないから、オレはいいの」
指一本が根元までようやく埋まった。親指と小指で鼠径部を軽く引っ掻くと、大和さんの両脚が気まずげに揺れる。中指の先だけをわずかに動かして肉壁を押す。大和さんはそのたび、苦しげに呻いた。
「それより、大和さんの、自分でしごいてよ」
「な……んで、ミツの前で、オナニーなんか」
「気持ちいいほうがいいだろ? 引かないよ、ほら、手」
大和さんの手を大和さん自身に導き、オレはふたたび胸板に左手を這わせた。右手の方は、じゅぐじゅぐと掻き出すように指を動かす。
指の腹のやわらかいところで内壁をこすりおろす度、大和さんの両脚が内側に傾いて、思い直すように控えめに開く動きを繰り返す。内股気味の膝に左手を載せて、その脚を外へ倒した。
戸惑うように震えた大和さんの片手をとって、膝裏を持たせる。
「開いてて」
「……こんな、格好」
「オレしか見てないよ」
「一番見られたくないっての……」
「大丈夫、嫌いになったりしねえから。むしろ嬉しい」
「変態かよ」
「あんなに逃げてた大和さんが、腹括って頑張ってくれてんの、嬉しいに決まってんだろ」
大和さんの指に力が篭もり、腿の肉にくい込む。オレはぐっとその腰を持ち上げるように、指を内壁に押し付けた。
「ひっ……ぐ」
「もう一本、頑張れるよな?」
「……っ、きに、……しろ……」
「うん。好きにする」
オレの中指を咥え込み、きつく閉じた孔。そこに人差し指を押し当てて、強く、中へ進めていく。
「う、ぁ……!」
「大和さん、ちゃんとしごいて。気持ち良くなっててよ」
「く……、う、……う」
大和さんの雄々しく割れた腹筋が、ぐっと縮こまる。異物を押し出そうと耐え忍ぶ苦しげな吐息が聞こえた。大和さんの手に手を重ねて無理やりちんぽをしごかせれば、手を離したあとも、大和さんはがむしゃらにちんぽをゆるくしごいて、苦痛を逃れようとする。それでも苦しみからは逃れられないのか、大和さんのものは、少し元気をなくして軟らかくなっていた。
「大丈夫だから」
大和さんの、質量をなくしはじめたものに左手を添える。 そのまま覆い被さって、鎖骨に唇を寄せた。鎖骨のくぼみの、影の溜まったところを舌で撫でると、大和さんが首をそらす。
「くっ、ふ、ぅ……ん」
「ちょっと気持ちいい?」
「……ちょっとはな」
「よさそうな声になったもんな」
「うるさい」
体をずらして胸に舌を這わせ、乳輪の縁をなぞるように舌を動かす。大和さんが本当に欲しがっているだろうところは、あえて舐めない。人差し指と中指とを一緒に前後させると、大和さんの尻は、ぐぷぐぷと濡れた音を響かせた。
「……っ、ふぅう、ふ、ぅ……っ」
指を揃えて、ゆっくりと前後させる。抜ける時は切なげに吐息して、押し込まれる時は苦しげに息を吸う、大和さんの呼吸音が小刻みに激しくなり始め、過呼吸めいたリズムになってきた。視線はどこか遠くを見て、ぼんやりと焦点が合わない。
「大和さん、こっち見て」
深く押し込んだところで、指の動きを一度止め、大和さんの唇に唇を押し付けた。舌の腹で唇を舐めあげれば、大和さんは涙目をオレに向け、赤ちゃんが泣き止んでおっぱいに吸い付くみたいに、目を伏せてオレの舌を吸った。
「ふ……ぅ、ン……ぁふ……ミツ……」
合間に呼んでくる健気な人の舌が、きつく舌を吸い上げてくる。舌に歯が当たって少し痛いくらいだ。
大和さんの中をとんとんと指で叩きながらキスをして、絶頂へ導く。大和さんが一生懸命に手で自分のものを刺激するせいで、オレの指にもみっちりと肉壁が絡みついてくる。指を奥へと運ぼうとする動きに、手のひらがじっとり汗ばんだ。持っていかれそう……。
「い、けな、ぁ……っ、ぐ」
「大丈夫だよ。ちゃんと気持ちよくなれるから」
耳に唇を寄せ、息を吹き込むように囁きかける。耳に当たった熱い呼気が唇に返ってきて、オレまで緊張してくる。
「それ、すき、ぃ」
「これ?」
「ん、っ、う、ん」
耳朶に直接唇を押し当てて囁くと、大和さんがぎゅっと目を閉じたままで肩を震わせた。泣き出しそうな表情に、ぐっと胸の底が重くなる。
「はぁぁっ、あ、ぁっ! んィくっ、イ、クッ!」
大和さんが体を起こして背を丸め、すっかり顔を顰めて苦悶の表情を浮かべる。
いく、いくとうわごとのように呟く大和さんの頬に頬を合わせるようにして顔を覗き込んだ。眉間に汗を光らせて、力を込めた両腕を震わせ、必死で股間のものを掴んでいる。
「大和さん」
頬に、こめかみに、瞼に、順に吸い付いて、くちびるでやわく皮膚を押してやると、大和さんは閉じていた目をかすかに開けた。
ミツ、と呼ぼうとしたのか、唇がきゅっと合わさるときの濡れた視線。こらえきれずに唇に吸い付く。
「んはぁっ、あ、あ! はぁっ! はぁっ!」
下唇がめくれて白い歯並びが顕わになった。目には涙が浮かんでいる。大和さんは、高く鳴く鳥の嘴のように口を開け、細く息を吸った。
「っ、はぁ……! ミツ……、!」
大和さんの両手が、オレの背中に回される。控えめにオレの胸を撫でた時とは全く違う、強い力。
自分より大きな大人の男に、こんなふうにがむしゃらにかき抱かれたことはない。
この人をそんなふうにしたのは自分なんだと思うと、無性に目の奥がかゆいような気持ちになって、抱きついてくる背中を両腕できつく締め付けた。背中に、肩に抱きつかれ、指をくい込まされているところ、肩甲骨のくぼみを汗が伝って落ち、その人の指を濡らすのがわかる。
腕の中に。ここに、大和さんがいる。
奇跡みたいだ。
歌って踊って、何万枚の不合格通知を積み重ねたって、そのいちばんうえに合格通知が降ってくるとは限らない。羽ばたいていった誰かの、白い翼のかけらが落ちてくる地上で、欲しいものを見上げて、もがいて、神様に祈って、それでもだめで。
それが、和泉三月の人生だった。
和泉三月の欲しいものは、他の誰にとっても魅力的で、きらきらして、眩しくて。みんながそれを欲しがっていることも、簡単には手に入らないことも、オレがそれをつかむには欠点ばかりだってことも、和泉三月はずっとわかってた。
だけど、諦めないことだけは得意だったんだ。
飛べないぶん走り続けて、ゴールテープがその先になくても、何かをつかめるように腕を伸ばしていた。踏みしめてきた砂にくっきりと足跡を残していることに、ずっと気づかないで上ばかり見ていたオレに、振り向くことを教えてくれたのは、ファンとメンバー。そのまんまのオレが最高だって言ってくれた、オレの好きな人。
身長が足りないよね。ダンスが上手ければなあ。歌も一番下手だったし。兄さんはかわいい路線の方が。もう二十歳過ぎちゃってるんだ。
たまには適当でいいじゃん。頑張んなくたっていいよ。笑ってるミツしか知らない人には、わかんねえこともあるよ。
そんなこと、言われたいなんて思ったこともなかったけど、うれしかった。すとんと、言葉が胸の底に落ちて、じわじわと温かさの波が広がって。気づけば泣き出していた。そう言ってくれた人は、オレの選んだ、オレたちのリーダーだったから。ずっと、オレたちの背中に、大きな手を回して支えてくれていた人だったから。
ありがとうとか、愛してるとか、言葉では伝えきれないくらい、体が軽くなった気がした。いま抱き寄せられている肩甲骨に、羽根をもらったみたいだった。
ほかならぬ、オレが欲したこの人が、オレを選んで、愛して、オレを抱きしめて泣いているなんて。
どうにかなっちまいそう……。
「イッ…………!」
喉に引っかかるような掠れた短い叫びの後で、大和さんの体が強ばる。内股にオレの手を締め付けて、大和さんは首を伸ばして絶頂した。
ぱたぱたと白い液体が大和さんの腹に飛ぶ。小刻みにあふれ出る勢いが激しいせいで、少しオレのちんぽにも飛んできた。
両手でオレの体をかき寄せたまま、大和さんがベッドに背中を預ける。その頬に頬ずりをした。抱き合って合わせた胸が、大和さんの大きな呼吸に押し返される。どくどくと、射精の後に血が巡っていくときの激しい胸の音が、体を揺さぶった。
「イけたな」
「……っ、はー、……ぁ……ぅん……」
刺激の強さに何も言葉が出ないのか、大和さんはぼうっと天井を見上げて、肩で息を整えている。きれいな横顔がすっかり汗だくだ。
ややあって、我慢汁まみれの手が、オレの腰に降りてきた。
「何?」
今日は指だけと約束して始めた。オレがイッていないことが気にかかるのだろう、指先でくにゅくにゅとオレのものを刺激してくる。
と、大和さんが、口の前に片手で指の輪を作り、舌を突き出して見せた。
「……口で、してやろうか」
 くち、というより、くひ、と聞こえる、不完全な発音だった。舌足らずなあどけない言い方に不似合いな誘い。つばを飲み込む。
ぜえぜえと疲れ切っているくせに。そんなこと、したことなんてないのだろうに。
意を決して、勇気を出して言ってくれたのだろう。それだけで飛び上がれそうに嬉しい。
単なる仕草だけで余計に質量を増したことは大和さんの手にも伝わっているだろうけど、オレは首を振った。
「せっかくだけど、今日はいい」
「なんで」
「……最初は、口じゃなくて、ちゃんと中に入りたい……、から」
大和さんが、そっか、と呟いて、オレに背中を向ける。精液まみれの腹や手をティッシュで拭ってやってから、オレも横になって背中に抱きついた。
じりじりとセミが鳴いている。いつの間にそんな季節になったのだろう、濡れた体を合わせているだけで汗が吹き出してくる。イッたばかりの大和さんは、オレよりもずっと汗をかいている。
「風呂、行ってくる?」
「いや……ミツの、抜かせてよ。俺にも」
「……や、すぐ出ちまいそうで、なんかもったいない……」
「何それ」
大和さんが背中を丸めて笑い、オレのほうへ向き直った。
どろどろのベッドで抱き合って、大和さんの手がオレのちんぽを包む。どちらの体液か分からない液体でぐちゃぐちゃの手が、オレのをゆるゆるとしごき始めた。
「……っ、ぁ……大和さん」
「ん……何?」
「……好き……」
喉の奥に溜まったありったけの空気に載せて囁くと、大和さんが目を閉じ、唇を合わせてくる。
「俺も」
その舌に夢中ですがりつきながら、この時間がずっと続きますように、と願った。

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