HONEY×DARLING
◼️二十三時の小さな約束
──Side y
尋ねるときだけ、いちだん、ひくい声になる。断れるように、逃げ道を残しながら、廊下の、少しだけ俺の部屋に近いところで呼び止めて。
「いい?」
聞かれた二文字より饒舌に目つきが語る。今すぐに仕留めて、食い荒らしてやりたい⋯⋯
「⋯⋯後で部屋な」
断れるわけがない。
こんな目をして、甘く優しく抱かれることを。
──Side m
「いい?」
尋ねるときだけ、その瞳が、たよりなく揺れる。
悪いことを見つかった子供みたいに、素直に甘えていいか迷うおさない捨て猫みたいに。
オレのこと全部受け止めなくてもいいよ。あんたが無理ならオレは待てるよ。でもちょっとだけ、あんたの中に入りたい。
つい、いつも、その人の部屋の近くで誘うのは、強引すぎるだろうか。
でも。
「⋯⋯後で部屋な」
その瞳が、照れ臭そうに嬉しさに濡れるのを。それでも約束を後ろに伸ばしてささやかに抵抗するのを。そんなどうしようもない言い訳を、オレにならできるこの人を。
いつだって本当は、逃がさず抱きしめていたいんだ。