HONEY×DARLING

■いつかのおあずけ

 ぞっとするほど熱い手のひらが、大和の腹に載せられる。
 腹筋のくぼみをなぞる手つきは性急で、ぐっとシャツを引きずりあげられたかと思うと、すぐに生ぬるい舌が肌を求めた。
「あっ……! っ、は、も、いいって、っ寝ろよ、ぅっ」
「無理。今日は絶対したい」
 ぷちゅぷちゅと、三月の唇が大和の臍を吸う。舌先をへその奥に押し込まれ、大和は身をよじった。
「ばっ、汚いからやめなさい。仕事……ッ、代打、大変だったろ、っぅ」
「大変だったのは大和さんもだろ。一週間、全然帰って来れなくて」
 他のメンバーにはばかって、小声で会話をする癖は、こういうとき、かえって大和を追い詰める。
 三月の甘くかすかな声がくすぐったくて、大和は片手で耳を押さえた。
 シーツをかき寄せて逃げようとする背中に、三月はまた唇を落とす。肩甲骨の窪み、腰骨のくぼみ、丁寧に舌で濡らされ、大和は裸足でシーツを蹴った。
「ひぅッ……!」
「それなのに準備してきてくれたんじゃん」
 囁きを流し込むように、三月の唇が、大和の耳に押し付けられる。
「ァ、ッ、や……めろ、ッ……」
「どっちを?」
 舌先が、大和の耳の形をなぞり始めた。三月の手は既に大和のゆるい昂りを包み、服の上からじっくりと捏ね出している。
「ど、っち、って……んんッ」
 じゅぶりと耳を舌で埋められ、快感を逃がそうとしても、三月の体重で押さえつけられた腰は震えるしかできない。
 枕にすがる背中に被さられ、触れ合う肌が、じっとりと汗ばんでいく。
「もう誰にも邪魔させないから」
 服の上から大和のものを包む手が、すこし指を伸ばして、尻のあわいをかりかりと擦る。3時間前、繋がるために準備した場所が、三月の長い指を求めて、きゅんと疼いた。
 ──もう逃げられない。
 必死にシーツにしがみついていた手をほどき、大和は体の力を抜いた。
「はっ……ぁ……、一回だけ。あんまやると、明日起きられなくなんぞ」
「誰に言ってんだよ。一晩徹夜くらい余裕だっての」
 出かける前、額にキスを落とした唇が、うなじ、顎の下、耳たぶ、こめかみ……次々になぞって、ようやく唇にたどり着き、離れた。
「つーか……」
 三月の手が、強引に大和のシャツを引き上げ、服を脱がせる。顕になった裸体に、三月は正面からのしかかった。
「あんたこそ、一回で満足できんの?」
 ほんの少し汗で湿った指が、大和の乳首をくにゅりと押しつぶす。
「っ、ふ……」
 指の先でくりくりと弾かれる度に、指の腹で挟んで潰される度に、ビクビクと腰が跳ねる。三月の固いものが、臍のあたりを圧迫していた。
「……明日、夕方から。インタビューとラジオだけだから」
 ため息とともに、大和は三月の頭に手を回す。
 抱き寄せて、仕返しのつもりで、三月の耳に唇をつける。
「腰が立たなくなるまでさせてやるよ」
 熱っぽく囁けば、ごきゅん、と強く鳴る三月の喉の音。
 思わず上がった口角は、けれど、すぐに三月の唇に覆われる。
 ざらつく舌を合わせながら、三月の下着を押し下げて、すっかり固いものを両手でまさぐった。
 一発くらい手で出させておかないと、マジで腰が立たなくなるまでされる……。大和の算段に気づいているのか、三月の手も、大和のものを引っ張り出す。
 夢中で唇を合わせながら、互いのものを濡らし合う。無言の間に、頬にかかる鼻息は熱さを増して、限界が近いことがお互いに分かった。
 三月の腕の扱く速さに、大和の腿が痙攣を始める。三月もまた、陰嚢を揉みしだいて亀頭を手のひらで転がす大和の愛撫に、身を縮ませた。
 イく──、鼻での呼吸すら封じるほど奥まで、三月の舌で埋められて、大和は固く目を閉じた。
「ッ、!」
 三月の精液が腹に打ち付けられる。信じられないほどの熱さ。瞼の裏に光が弾ける。
「んんッ! ん──」
 腰を反らして、三月の手や腹に股間を押し潰されながら、大和は精を吐き出した。
 長く間欠的な吐精を終えて、脱力した体から、三月の体が離れる。
 ベッドの下の引き出しを開け、コンドームを咥えて、手のひらにローションを溜める……一連の手つきを目で追いながら、大和は知らず、微笑んでいた。
 ようやく……。
 大和の表情に気づいた三月が、ぐ、と眉を寄せ、頬を火照らせる。
 片手で手早くゴムをつけ終え、大和の腹をティッシュで拭いながら──余裕のない顔で呟いた。
「あんま煽んないで。ほんとに、手加減できなくなる……」
 発情しきった瞳に、火照った頬、笑いかける余裕もなく唇を引き結んだ表情。
 急な代打の仕事にも、くるくるとよく表情を変えて愛想良く応じたのだろう三月に、そんな顔をさせられるのは、自分だけだ。
 気分がいい。
「でもさあ、ミツ」
 どくん、どくんと、心臓が打つ音が、頭蓋骨まで響いてくる。身体中が、三月を待ちわびて震えている。少し吐いた息にすら、堪えきれない喘ぎが混ざった。
 手を伸ばして、三月の手に手を合わせる。手のひらで温めていたローションが、シーツにこぼれた。ぶぢゅりと手のひらの間で空気が潰れる。
 三月の手から奪った滑りを、大和は自ら、尻の間に塗り込めた。
「俺は、もう、待てないんだけど……?」

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