HONEY×DARLING

◼️エッチなおねだりを十個しないと出られない部屋

「だめだ、開かねえ」
 体当たりにもびくともしないドアに、三月が大きく息を吐いて座り込んだ。両手を後ろについた三月に、大和はごくりと唾を飲む。
「てことは、これに従うしかないってことだな……」
 これ、と言って大和が示したのは、無機質な明朝体で壁に記された文字列。
 『エッチなおねだりを十個しないと出られない部屋』。
 『この室内で起きたことは、ミッションをクリア後、全てリセットされ、消耗した体力も元に戻ります』。
「こんなご都合主義の部屋、うちの寮にあったか……?」
 人の住まない部屋は傷みやすい、たまには軽く掃除でもと寮の三階に足を踏み入れ、大和と三月はその一室に閉じ込められてしまったのだった。
「これさあ」
 三月が立ち上がり、腕をくんだ。俯いて思い切りため息をついた後で、ばっと顔を上げる。期待に震える笑顔を浮かべて。
「百回イッても大丈夫ってこと……?」
「物置の耐久性の尺度なんだよ……」
「でもそういうことじゃん。明日の仕事に絶対影響しない部屋で、エロいお願いしないと出られないってさ……」
 はあ、と三月が熱く吐息する。震える息に、大和は知らず自らの肩を抱いた。
「イキ殺される……ドメスティックセックス……」
「ただの円満家庭じゃん。いっぱいイチャイチャしような」
 にっこり。
 深く刻まれた三月の笑顔に、大和は大きく息を吸い。
「すいません! とりあえずビール貰っていいですか?」
 いるともわからない部屋の主に、我を忘れる魔法の薬を要求したのだった。

  *

 一本目の缶ビールに既に顔を赤らめ、三月が大和の前に胡坐をかいた。大和のうんざりした表情を意にも介さず、三月は人差し指を立てる。
「一個目のおねだりな。えっちしてる間、きもちいいとこ、全部言って」
「うえ……なんのプレイだよ……」
「いや?」
 大げさに額を押さえた大和に、三月が詰め寄った。いやかいやじゃないかなら嫌だ、が、それを訴えてこのおねだりが棄却されればこの部屋からは出られない。
 大和はため息をついて、笑みの形を作った。
「じゃあ、今度するとき、黒のセーラー着てくんない? お兄さんスーツ着るから」
「やだよ、あんたのスーツうん百万すんじゃん」
「アオキで二万の買ってくるから♡先生って呼んで♡」
「女装の男子生徒に犯されたい願望……? どんなAV観たんだよ」
 いいけど、と、三月は大和の方へ身を乗り出す。
「今日はこのままエッチしよ?」
 妖艶に誘う囁き。
 口をつけていた缶ビールをぐっと傾けて、大和が残りのアルコールを喉に流し込む。
「他のおねだりは……?」
「今あるなら言っていいぜ」
 大和の問いかけに応える間にも、三月はすでに大和のシャツのボタンをぷちぷちと外して、薄いインナーの上から手を這わせていた。
「大和さんの、エッチなおねだり、聞きたいな」
 三月が、大和の胸に胸を合わせる。アルコールに赤らみ始めた頬に、ちゅ、と甘い音を立てて口づけた。
 ゆっくりと、三月の視線が下りる。唇に視線を定めて、口を薄く開いた。
「……ミ……」
 三月の視線を追って視線を下げた大和のくちびるに、三月の呼気が掛かる。アルコールの匂いを孕んだ熱い吐息をつぶすように、三月が舌の腹で大和の下唇を舐め上げる。そのまま唇を覆われ、大和は肩を上げて目をつぶった。
「……っ、ん……」
 口内を舌が蹂躙する。慣れた熱量をぶつけながら、三月が大和の股間に手を伸ばした。服の上から、手のひらで柔らかく揉みこまれ、大和が甘く吐息する。
「ぅ……ん……ふ……」
 大和の下をむさぼりながら、三月が指で大和の耳たぶを触った。ふっくらとやわらかい耳たぶをくすぐって、耳の縁に指を添わせる。
「ん……!」
 大和が、声色を変えて三月の背に腕を回して縋り付くと、ようやく三月の唇が離れた。
「は……っ、ぁ、っ、やる気、出しすぎ」
「大和さんの、もうかなり勃ってきてるな」
「ミツこそ」
 呼吸を整える間もおかず、三月が再びくちづけてくる。口づけながら、強引に大和のベルトをくつろげて陰茎をひっぱり出した三月に、大和も三月の腰のあたりをまさぐった。
 互いの、大きく形を持ったものをこすり合わせながら、キスをする。三月の舌先が上あごを擦るたびに、大和の手の力が強まる。
 大和さん、ほんと、口弱い。ここされんの好きだよな……。
「んっ、んっ」
 ふと、大和が、三月の頭を抱き込んで、とんとんと叩く。
「ん、なに?」
「ミツに、そこ、されんの……きもちい……」
 さっき三月がねだった言葉。気持ちいいところを全部言う、というおねだりに、大和は目の端を赤らめながら、眉を寄せて応えた。
「……っ、やば、それ、かわいい……」
「うっせえ」
 ぷちゅ、と、ごまかすように大和がまた三月の唇に唇を合わせる。軽いキスのあと離れた場所を、三月は舌先でくすぐった。
「ん、ふ……、んぅ……」
「っ、は……やまと、さん、オレにもなんかおねだりして」

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