HONEY×DARLING
◼️まるごしのよふけ
「っからぁ、人生ってのはさぁ」
積み上がった缶はすでに五段を越え、一番上でクシャリとつぶされた空き缶が、怪しげな人生論を受け止めかねて、ふらふらと揺れている。揺れているのはオレの方かもしれない──三月は缶に唇を当てて、ちらりと声の主を見た。
三月の部屋ですっかり顔を赤らめ、呂律の回らない舌で人生を語る、酔いどれた恋人。大和は、襟ぐりのがばりと開いた白いシャツから、赤らんだ胸元を覗かせている。床に座った大和の胸元を見下ろせるような、ベッドの上に陣取ったのは、偶然だったが……。
(何で今日に限って乳首浮くようなうっすいシャツ着て部屋来るんだよ……!)
三月の部屋を訪れたときに着込んでいたモスグリーンのカーディガンは、暑がった大和が脱ぎ捨てたあと、なぜか三月の枕に着せられていた。酔って奇行に及ぶのは、二十歳のメンバーの専売特許のはずだったが……。
(ほんと……付き合い出してから、しこたま酔うの遠慮しなくなったよなあ、この人)
「はあ、あつ」
床に座った大和が、気怠げに首に手を当てて、手のひらや手の甲でどうにか熱を冷まそうとする。その手も熱いんだよな、と、つい抱き合った夜を思い返してしまうのは、アルコールのせいか。
(つーか、両隣が普通にいる日だからって、油断しすぎだろ。夜中にのこのこ彼氏の部屋来て酒飲んで、うっすい服で乳首ツンツン勃たせて、ぐでんぐでんになってんの、マジでタチ悪い)
あぐらをかいた足に、筋張った手首を乗せて、大和は小鼻を膨らませた。
「そういう、ままならない、人生ってやつを、俺たちはさあ、生きてかなきゃなんないわけで……」
「うんうん」
酔うたびに聞かされる大和の話を聞き流しながら、一度そこに及んだ思考は、もう戻らない。三月はもう、大和の胸から目を離せなかった。
(あー……セックスしてえ)
(大和さん、つまみ取るたびにちょっと屈むから、乳首チラチラ見えるんだよな)
(肌とか火照ってピンクだしさあ……)
(触りてえー……)
「んいーー、きいー、てんのかぁ、ミツー」
ずりずりと床に尻を擦り付けて、ベッドのふちにしなだれかかり、大和は三月の足首を掴んだ。はっとするほど熱い手のひらの向こうに、蕩けた瞳。
「……聞いた聞いた。大和さんはえらいよ、いつもありがとな。そろそろねんねしような」
「ぅあー……ねんの」
「寝んの。ほら、腕あげて」
「ん……」
三月に言われるまま、素直に両腕を上げた大和の脇に手を差し込んで、抱きつくように体を持ち上げる。
じっとりと汗ばんだ肌にはりついて、シャツがずり上がった。
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