方舟Ⅰ _暴かれて終わったオレたちの関係について

(中略)


6.

(中略)

泣くなよ、と、優しい声が、耳朶をなでる。
結んでいた唇が、はちきれるように開いた。
「あの人なんて、言わないで」
「え。潮見さん?」
「名前も呼ばないでほしい」
ぐいっと大和さんの体に体をぶつけて、ベッドの上に押し倒す。
影の下に閉じ込めた頬を両手で掴むと、ばたばたと大和さんのほおにオレの涙が落ちるから、大和さんが泣いているみたいに見えた。
鼻を啜って告げる。
「オレだけ呼んでよ……」
縋るようにこぼした一言に、大和さんが大きく目を見開いて、また、謝りたそうに、眉を寄せる。
申し訳ない顔なんて、もう見たくないのに。
ああ、もう!
強引に唇を合わせて、舌先で、そのかさついた唇をぬらす。何度もはんでも、オレが何をしたいのか分からず戸惑っているみたいに、大和さんは口を開かない。
ガバリと顔を上げた。
「あんたに言われたからじゃなくて。オレに奪わせて」
どくどくと心臓が打つ音。オレのでも、大和さんのでもいい。二人分の音を重ねて、ここに満たして、一つになりたい。
「あんたがあの人の前でそういう顔すんのとか、想像したら、すげー嫉妬した」
声に怒気がこもるのを止められない、みっともないオレに、大和さんは、泣き出しそうな顔をした。
遅いよ。もう泣いてる暇なんかやんない。
「ごめんな。余裕ない」
口早に告げてまた唇を合わせると、大和さんの舌が、侵入したオレの舌に絡みついて、ぬるつく表面を擦り合わせた。
もどかしくズボンを脱ぐオレの手に、大和さんの手が重なる。下着ごと服を脱ぎ捨てると、もう耐えきれず張り詰めたものが、外気に晒された。
大和さんの体に押し付けながら、唇を貪り続ける。
「んっ、……んんっ!」
どん、どんと、やまとさんの拳がベッドをたたいた。夢中になって貪り尽くす舌のせいで、きっと息がつらいんだろう。それでもやめてやれなかった。大和さんの下着をおろして引き摺り出したものを、オレのものと一緒くたに掴む。
「んっ、ん、んん!」
大和さんが嫌がるように首を振って、オレからのがれた。
「っはあ! ぁ、っはぁ、あぁっ、ごほっ、げほ、げほ……っは、はぁ、あぁん! っ、あぁ、やっ」
必死に空気を取り込もうと動く胸に、ぴっとりと胸を合わせて、その首筋に舌を這わせる。追い詰めたい、泣かせたい、この人が隠してるもの全部引き摺り出して、オレに縋らせたい。
「あぁっ、は、みつ、待って……!」
舐め上げた舌で、大和さんの耳の形をなぞる。じっくりとねぶってやるつもりだったのに、大和さんが首を捻って、物欲しそうにオレを見た。かちあった濡れた視線に誘われて、また無我夢中で唇を合わせる。
「んっ、ふっ、ゥんっ、ン、あぁ!」
舌を啜り出してべっとりと舌の腹を合わせて、また喉奥へ押し込んで唇を離す、何度も繰り返す動きのあいだにも、両手に握り込んだものを扱く手がとまらない。
「だっ、だめ、みつ、でる、やだ」
「なんで……ッ、人のこと置いてって……また勝手に一人になろうとすんの」
「しないっ、しないから、ぃっしょにいきた……っ、ぃ……!」
噛み付くように尋ねると、大和さんがぎゅっと目を瞑って首を振る。快感に耐えるしぐさをしながら、その両手は、必死になって自分のものの根元を握り込んでいた。
「ぃっ、い、ぃぃくっ、いく……!」
「いってよ、いってよ大和さん、オレの手でイッて、オレがいいって言って……!」
「みっ、みつのでいきたい、みつの、なかにいれて、ナカでいかせて……!」
ぐっしょりと涙に濡れた瞳がオレを捉えた。手を止めて、われをわすれて叫んでいた唇に、唇を合わせる。
「……はっ、はぁ、……後ろ、向いて……」
大和さんのものから手を離して、体を起こすと、両手は光を照り返すほどに濡れていた。
「……ご、めん、オレ……むりやり……」
「いいよ、あやまんないで……」
大和さんが肩で息をしながら、オレのベッドの下のひきだしをさぐった。
「なんだ」
さっきまで余裕を無くしていたくちびるが、汗やら鼻水やらに濡れきって、ふっと不敵に笑む。
「同じ場所に入れてんじゃん、ゴム。あんま、よろこばせないでよ」
自分も余裕なんかないくせに、笑顔をつくろう食えない顔。
その引き出しを開けたら、あの頃が飛び出してきたみたいだ。
大和さんはオレにゴムを投げ渡し、両足の下にわだかまったままの服をすべて脱いだ。ローションを手のひらへ絞り出す、びゅぎゅるる、という音も、前と変わらない。あれから、つらい思いも、寂しい日々も送ったのに。
大和さんの手のひらに手を重ねて、ぬめりを奪い取り、尻の丸みを撫で上げた。尻の間を手の横で掠めるように何度もなぞる。ベッドに四つん這いになっていたやまとさんの体が、少しずつ、くったりとシーツに押し付けられていった。
「いれるよ」
中指で何度か、そのふくらんだ窄まりをなぞって、ぎゅっと指を押し込む。大和さんのからだが強張って、オレを受け入れようとうごいた。
押し込んだ先の広い空間へ、指先の滑りを塗りこめていく。
「ぁっ、あ、ぁぁ、っ、は、そこ、っ……マジ、出るから……、早くして……ッ」
「だめだって、久しぶりなんだから……」
「さっき無理やりしごいたやつが言うことか……っあぁ!」
「なるべくはやく慣らすから、大和さんも、頑張ってがまんして」
「ぁ、あ、無、理いうな……ァッ」
がくんがくんとはげしく大和さんの内腿が揺れる。大和さんが両手を伸ばして必死に自分のものを押さえるのを、その後ろをくすぐって責め立てた。
久しぶりに触れるそこは、それでもオレの形を忘れていないのか、すぐに二本目の指を咥え込んだ。
「ぁーっ、ら、ぁ、っあ、あぁ、ら、ゃ、っめろ」
「やめたくない」
「ぅ、ぅう……っ、も、いい、から!」
ぐっと、大和さんが肩をシーツに押しあてて、腕をさらに伸ばした。自分の後ろに、自分の指を差し込んで。
「はいるよ。……来て」
衝動が、脳の奥で弾ける光を見た。ぐっと腰をすすめて、まだ少し狭い大和さんのそこに、オレ自身を押し込める。
「あぁぇ、ぁあっ……!」

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