32SS 

◆止められない!

ぐぢぐぢと淫猥な水音が部屋中に響くたび、カッと頬が熱くなる。
早く終わってくれ。大和は畳んだ掛布団に顔を押し付けて、細く息を吐いた。
「大和さん、苦しい?」
「くる、し……く、ない」
問いかけに、はぁと熱く吐息して、辛うじて応える。それを嘘だと見抜いてか、恋人はため息をつき、大和の内壁を強く押した。
「んあっ!」
「じゃあ、気持ちいい?」
ぐりぐりとねじ込まれてくる指を、内壁が強く押し返して拒む。
いま大和の腰の下には、大和の腰が引けないように、三月の枕が押し込まれている。うつ伏せの体勢では、大和の気持ちよさを表す器官は、三月の枕に擦り付けられることになる。
尻臀にくい込んでいた三月の指が、大和の前へ回される。
「くっ、ふ……ぅん……っ、ん」
くちくちと先端をにじられながら、そこに通じる気持ちのいいところを内側から引っ掻かれて、気持ちよくないはずがない。
自然と上がる声に、いっそう顔が熱くなる。信じたくなないが、三月はおそらく大きな瞳をくりりと開き、大和の反応を見逃すまいと視線を注いでいるだろう。
「ば……か、っあ、訊かなくても……わかる、だろ」
三月は、教養とか偏差値とか、そういう世間的な物差しで測れば、とりわけ秀でている訳では無い。けれど、勘は鋭く、興味のあることには勉強熱心だ。
そんな大和の恋人は、いま、大和の尻の開発に、強い興味を示していた。というか、はまっていた。
「うん……じゃあ、ここは?」
「んひっ、あ! はぁっ……も、やめて、変な感じ……ぁっ」
「変? どんな風に?」
「見ればわかるでしょ……!」
懇願は聞き入れられず、三月の指が優しく大和の中を撫で回す。かと思えば強く押して、その度跳ねる大和の腰に、へえ、なんて呟いてみせた。
やめろっつってんだろ。俺の尻の制御権が俺にないのはおかしくない……?
大和の困惑も怒りも意に介さず、三月は中指を折り曲げ、大和の中を擦り上げた。指の腹で小刻みになぞられる感触が背筋を伝って脳髄を痺れさせる。
大和の腰の下で、三月の枕はぐずぐずに濡れてしまっていた。
「はっ、ぁ、み、つ」
「何?」
大和は、手放させられた尻の制御権の代わりに、たった一つだけ、この窮地を逃れる方法を知っている。余裕ぶった恋人の、余裕をはぎ取る方法を。
……それは同時に、自分の身をゆだねるということでもあったけど。
「なあ、みつ」
後ろに差し込まれた指の根元に指を添えて、前後にしごくように動かした。目じりからの視線を受け止めて、三月が動揺したように身動ぐ。
「も、挿れたいだろ?」
「……いや、まだちゃんと解しきれてない……」
「ナカ、あついの、わかる?」
三月の喉仏が、ごきゅん、と上下するのを、視界の端に捉えた。
もう一押し。
「……ミツが挿れられないなら、俺が自分で、乗ってやってもいいけど」
ぐっと、三月の中指が、大和の中を強く押し上げる。
「ああっ!」
「……大和さん、ずいぶん余裕じゃん。まだ気持ちよくないってこと?」
「……へ、え? いや、そうじゃなくて……」
「いいぜ、あんたがそういう態度なら、ヘロヘロになるまでほぐしてやる」
「いやあの、ミツが、そろそろ挿れたくないのかなーって話を……」
「挿れたいぜ? そのためにほぐしてんだけど、あんたがさっさと終わらせようって態度とるから、気が変わった」
「み、ミツ……三月さん……?」
そっと引こうとした手を、三月の手がぐっと掴んで、無理やりに大和の中に大和自身の指を押し込ませる。自分で尻を慰めているような姿勢が情けなくて、枕に顔を押し付ける。と、三月がその体を、ばさりとベッドに横倒しにした。
にっこり。効果音が聞こえそうなほど、朗らかで優しげな笑顔。大和の顔は反対に、戸惑いと羞恥に赤くなったり青くなったりしているというのに。
三月は、大和に、追い討ちの一言を告げた。
「絶対、泣くまで解す」
ちょっと待って……!
寝そべった体では、さっきよりも指の圧迫感が大きく感じる。三月の指に中を優しくなぞられて、大和の制止は声にならない。
息も絶え絶えで、恨み言を吐く。
「っ、ると、思った……のに」
「うん? 何?」
「止め、られ、る、と!思った、ぁ、のに……っ!」
鋭く吐き出したつもりの言葉も、甘く上擦ってしまう悔しさに、大和はシーツに歯を立てる。その口元に、三月の片手が伸びてきた。口からシーツを外させて、口を開く。
「声」
三月は、大和の赤く染まった目じりを嬉しそうに見下ろして、指をさらに深くへと進める。
「止まんないくらい、気持ちよくなろうな♡」

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