32SS
◆うたた寝にキス
部屋を訪ねることは伝えていなかった。それでも鍵を開けておいてくれたのは、俺に来て欲しかったからなのか。胸の奥が暖かくなる。
ノックの後でドアを開ければ、案の定、部屋の主は眠っていた。道理でラビチャに既読もつかないわけだ。コミュ力お化けで誰とでもぽんぽんメッセージをやりとりしているこいつが。
「疲れてんだなー」
すうすうと寝息を立てるミツの枕元にかがんで、頬を指で押してみる。月明かりと外の街灯の光が、開きっぱなしのカーテンから入り込んで、電気がついていなくてもはっきりとその姿が見えた。
「うはは。もちもち。疲れててもスキンケアはするんだもんな」
数回指の腹でもちもちと頬をつついても、ミツは目覚めそうにない。
「お疲れさん」
とはいえ、疲れているのは俺も同じだ。一日の終わり、好きなやつの傍で気を抜けば、ほのかな睡魔が訪れる。左手でミツの体を撫で下ろし、その手に指を絡めた。あたたかい。
このまま、ここで寝ちまおうかな。
明日の朝起きたミツに、ちゃんとベッドで寝ろって怒られそうか。でも、ベッドで寝るよりも、ミツの隣でうたた寝する方が、気持ちよさそうなんだよな……。
すりすりと、絡めた指の甲を指の腹側で擦り上げる。俺よりも少し細い指。スキンケアの後だからか、もっちりしっとりと、肌に吸い付いてくるようだ。
少し手を引いて、ふにふにと盛り上がった指の付け根の肉を押してみる。
「ぅん……」
ミツの眉がむず痒そうに寄った。起きるか?
心配したものの、ミツはすぐにまたすうすうと規則正しい寝息を立てる。
ぎゅっとふたたび指を絡めて、自分の手のひらでミツの手のひらを握り込む。柔らかなその肉は、眠気のおかげか熱くて、気持ちがいい。
この指は、俺よりも俺の体を知っている。腹側の、少し浅めの、一番欲しいところをぐりぐりと押して、柔らかく引っ掻いてくれる指だ。
ぐいと俺の後ろを押し広げて、自分のものを押し込んだ後は、苦しむ俺を慰めるみたいに胸の突起をぴるぴると擦る。この指の股で、ごりごりと裏筋を扱かれるのも、気持ちが良くて……。
……どうしよ。睡眠欲と性欲と食欲は根っこが同じと聞いたことがある。たぶんそのせいで。
興奮している。
……したい。
「ミツ……」
足の間に右手を差し入れ、目覚めそうにない恋人の名前を呼ぶ。恋人の部屋で、下着を下ろして、恋人の枕元で、その頬に触れないように息を吐きながら。
繋いだままの左手がじっとりと湿った。ミツ、起きんなよ。
指で触れたところはもう張り詰めていて、期待感にもったりと重たく倦んだ下腹部で反り返っている。疲労とは厄介なもので、そのつもりもないのに勝手に体を盛り上げさせてしまう時がある。
ため息をついて、そこを濡らす体液を、指に絡め取った。
「ん……っ、く……」
指を奥へと進めて、後ろの穴をすりすりと撫でる。ぷくりと膨れて肉を盛り上げた場所に、ぬめる先走りを塗り込めた。
「っぁ、は……ぅん……」
唇を閉じ、鼻から荒く呼吸する。
ミツの長く揃ったまつ毛はピクリとも動かない。恋人は相変わらず、綺麗な横顔をして眠りの中だ。
ミツの匂い。ミツの寝息。薄暗い部屋中ミツでいっぱいだ。キスしていい?起きないよな?
「ん……はぁ、み、つ」
むちゅ、と柔く押し返す唇を、もう一度食む。
あ、やばい、止めらんない……。
ちう、ちゅ、ちゅう、あどけない水音が小さく上がる。何度も何度も唇を押し付けた。
唇が触れ合ういつもの感触に、体の緊張がほどけていく。とろける蜂蜜のようにもったりと甘く重たいものが下腹に凝って、思考を塗りつぶしていく。
ミツ。ミツ。
腰が揺れた。どんどん欲しくなる。奥に。ミツの指が、ミツの体の中心が。
唇の間を舐めて湿らせて、その奥を割り開いて舐めて、起こしてしまえば、ミツは俺を抱いてくれるだろうか……。
はあ、とミツの唇に吐きかけた、自分の息が熱っぽい。まずい、やめなきゃ。そう思うのに、ぐぽぐぽと奥へ進める指が止まらない。反り返ったものを腕の内側に擦り付けて、シーツを噛む。
足りない。ミツ。触って。
ぎゅう、と恋人の手を強く握って、がむしゃらに中をまさぐる。
と、ごそりと、頭の上で衣擦れの音。
「人の枕元で何してんの」
「……ぁ、ミツ……起きたぁ……」
「……あんだけキスされたら、起きるって」
「ふ……ごめんな、ぁ……っ、ぅ」
呆れたような、怒ったような、寝起きの恋人の声を聴きながら。それでも手が止められない。
「ぁ、ほしい、ほしいよ、ミツ……っ」
俺の指でも届くところ、でもミツに触って欲しい。
濡れた目で見上げると、月光の中、ミツは唇を小さく噛んだ。
「大和さん」
目を閉じてキスに応える。上顎を撫でる舌の感触に、鼻から吐息が抜けていった。
「ん、ッは、み、つ……ぅ、もっと、して……」
素面でこんなことを言うなんてありえないのに。寝ている恋人の横で尻を弄っていた羞恥と、恋人が目覚めてキスをしてくれた喜びで、もう何もかもどうでもいい。早くして欲しい。
こんな態度取って、終わってから、すげえ後悔するだろうな……。
分かっているのに、口が勝手に本能を言葉にしてしまう。
「な、あ、っ……この指で、して」
ミツの左手を口元に引き寄せ、舌を這わせた。
指の股をくすぐり、指の甲を舐め上げ、爪の形をていねいにねぶって、舌で人差し指を口の中に迎える。
「いっはい、ぐひゅぐひゅに、ひへよ」
細くて形のいいミツの指。いつも俺の中をまさぐる指を、口に貯めた唾液で濡らしていく。
「みう……」
舌足らずに呼ぶ。男が、ごくりと、唾を飲み込む音を聞いて。俺は顎を上げて微笑んだ。
欲しいの、やっと、はめてもらえるんだ……♡