あなたの手でいかせて

見てしまった。
組み立てベッドの下に座り込んで、いつも着ているパジャマの下を脱いで、脚の間を両手でぎゅっと押さえる姿。
一織が、ひとりでする様子は、思っていたよりずっと──。
下手くそだった。

「て、手伝う?」

気づけばオレの口からは、こんな言葉が飛び出していた。ドアを部屋の内側に押し開けた、その姿勢のままで、壁に背中を預けた一織と見つめ合う。
白磁の陶器みたいにいつもつややかで白い一織の肌が、胸元や首までぶわっと、花が咲くみたいに紅潮した。

「はあっ?!何考えてるんですか!出てってください!」
「だよね〜……でもあの、苦しそうだし」
「性器を刺激しているんですから当然です!」
「ちょっと一織声おっきい」
「……とりあえず、ドアを閉めて……」

ちょっと泣きそう?
一織って、かわいいところあるんだよな。
怒りと動揺で慌てた気持ちを無理やり押し込めた声は、小さくて、震えていた。ドアを閉めて、と懇願されて、オレはつばを飲み込む。
一歩踏み出して、後ろ手にドアを閉め、持っていたものをそこに置くと、一織が両膝を内股に倒しながら、目を白黒させる。

「なんで入ってくるんです?!」

程よく肉のついた両脚は、けれど成長期らしく細くて、手の中のものを今更隠そうとしたって、うまくは隠れない。
おなかの下、いつも下着で隠れるところの、暗い色の毛が、一織の手の下からちらりと覗いている。
オレがつい見つめてしまったせいか、一織の手にはいっそう力が込められた。

「いや、だって……一織ぜったいもっと気持ちよくなれるよ」
「はあ?」

大股に近づいて、一織に覆い被さるみたいに膝をつく。オレの影が一織の顔を隠して、表情を見えなくさせた。けれどきっと、何を言っているんだ、と訝しんで困惑する顔をしているのだろう。根が素直だから、一織の声は感情がわかりやすい。

「オレにやらせて!大丈夫、痛くしないから!」

勢いのまま、股間を隠す一織の両手をひっ掴んだ。引き剥がそうと躍起になる。一織も一織で絶対にオレに身を任せたくないらしく、上手く手を離すことが出来ない。

「手!力強い!潰れちゃうって!」
「七瀬さんが手を離してくれれば済むことです!」
「やだ!したい!やらせて!ちょっとだけ!1回だけだよ!」
「なんかその表現語弊がありませんか?!」

激しい攻防──と言っても一織の節ばった手を上から掴んで引っ張っていただけだけど──の末に、一織はとうとう観念したのか、深い深いため息をついた。
それから、じっとオレの目を見据えて、すごく嫌そうな声で言う。

「いいですよ……しても」
「やっぱり一織も興味あるよね」
「違いますけど!」

手のひらの下の一織の手は、これからすることをこわがっているのか、震えていた。

「合意無しで高校生にこんなことをしたら、犯罪になってしまいますから。メンバーを犯罪者にするわけにはいかないので、仕方なくです」
「……大丈夫だよ、オレに任せて」
「話聞いてました?」

呆れた声を出しながらも、一織はオレの手に抗うことなく、秘部を覆っていた両手をひらく。
赤く濡れそぼったそれは、真っ白な一織の脚の間に、貫くみたいに勃ち上がっていた。

「あんなに握りしめてたのに、まだ勃ってる」

思わず口にしても、一織から反応はない。
顔を真っ赤にした一織は、下唇を噛んで、羞恥に耐える表情を浮かべている。やり場に困ったらしい両手は、パジャマの前を掴んでかき合わせていた。いつもすっきりと皺のない薄い水色のパジャマに、今日はかわいそうなくらい皺が寄っている。
そんな仕草、上まで脱がせたくなっちゃうんだけどな……。
余計な気持ちを振り払いたくて、一織のものを片手で包む。

「先っちょ、もう濡れてるね」

マイクテストをするみたいに人差し指で亀頭を軽く叩くと、透明な糸が指に絡んだ。空気を押しつぶすぐちゅりという音。
指の腹を鈴口に押しつければ、一織が逃げるようにおしりを引いた。
指で円をつくって、一織のをその円の中に抜き挿しする。そんな簡単な動きさえあまりしたことがないのだろうか、一織の息はすぐに上がった。
一織の目じりが濡れて、カーテンの隙間から射し込む街灯の明かりを集めている。暗闇でもつやつやと光る瞳に吸い寄せられるみたいに、オレは一織に顔を近づけた。部屋着のTシャツが一織のものに触れそうになって、一織が数回首を振る。

「七瀬さんの、服を、汚します、から……、離れて、ください」
「汚していいよ。一織がオレの手でいくとこ、見せて」
「……嫌です」
「じゃあ、後ろから抱きしめてもいい?」

一織の声は硬く、本当に嫌がっているようだった。仕方なく、オレも姿勢を変えることにする。膝立ちで前傾する姿勢がしんどくなってきたのもあるけど、言えばここまでにされてしまいそうで、言わなかった。

「もう、好きにしてください」
「うん、好きにする」

言い終えて手を離すと、ふっと一織がオレから視線を外して、安心したように息をついた。
一織はいつも、目を見て話す。
一織が相手の目を見ないのなんて、なにか後ろ暗い事がある時くらいだ。日ごろしない失敗をして、みんなの前から消えてしまいたいと泣くときだとか。
そういうとき、オレは抱きしめて癒してやりたいのに、一織はひとりで抱えてしまおうとする。それを扱うのが初めてで、どうしていいのかわからなくて、その扱いを間違えてまた失敗してしまうのが怖い、そんな不安ごと閉じ込めてしまおうとするみたいに。普段からはありえないくらい不器用で、臆病になる。
まだ高校生の一織。
不安になったっていいよ。上手にできなくたっていいよ。泣き出しちゃってもいいんだよ。きっとオレが、オレたちが、涙のあとは嬉しい気持ちにさせてあげる。
だから逃げないで。

「きつくない?」
「はい」

オレは一織の背中にまわると、一織の腰に手を回した。ハーフパンツ越しに自分のものが当たってしまわないよう気をつけながら、立てた膝の間に一織を抱え込む。
姿勢のいい一織の頭が目の前に来て、前が見づらい。段差が欲しいなあ……。肩口に顎を載せながら、思いついた名案を口に出す。

「次はオレの部屋でやろうね、ソファもあるし」
「はっ?次?」

一織の問いに答えるのも忘れて、オレは一織の右手を掴んだ。手のひらに亀頭で円を描くように、一織の手のひらに一織のを当て、動かす。
一織の指はぴんと張って、先生に指名されるのを待っている子どもみたいだ。

「ひっ、ぃ、ん」

喉が引き攣ったような高い声が、一織の薄いくちびるに阻まれて、くぐもった。見れば、一織は左手の甲で、口を隠している。
一織、気持ちよさそう。
もっと、声、聞きたい。

「声、抑えないで」

耳の後ろで囁いて、左の手首を掴む。一織の肩が怯えたように上がった。
オレは、一織の右手ごと竿を握りこんで、動かす。

「やだできな、っあ、ぁあ!」

口を開いて答える一織の動きに合わせて、オレはぬるつく一織のものを少しきつく握った。一織の右手は、咎めるようにオレの手に添えられる。
先っちょが手のひらをえぐる度、一織が信じられないみたいに目を見開いて喉を開いた。本当に、こんな風にしたことはこれまでなかったんだろう。快感から逃げて暴れ出したい、と、オレの膝の間の体が張りつめているのが分かった。

「力抜いて、オレにもたれて」

耳の後ろがくすぐったいらしい、一織が思い切り俯いて逃げようとする。強引に左腕でオレの膝を抱かせると、一織はオレの膝にすがるみたいに額を押し付けた。

「っは……や……ん、や、……」

閉じてこようとする一織の脚を、 足を絡めて開かせる。日頃の柔軟の成果か、かぱっと開いてしまう両脚から、一織が必死で目を背けた。
右手で、開いた脚の間の自分のものを気持ちよくさせられながら、左腕はオレの膝を、顔を押し付けてまで抱きしめている。オレの目の前に顕になった白い首すじは、じっとりと汗ばんで震えていた。

「一織、すごく気持ちよさそう」

親指を竿の手前に当てたまま、人差し指と中指を裏筋に添えて撫であげると、もどかしそうに一織の腰が揺れる。上下にゆるゆるとさすられる物足りない刺激に、一織の鼻から高い声が抜けた。オレの膝に額を擦りつけるように、一織が首を振る。

「ちがうの?」
「ちが……っ、んん、んん」
「なら、声出した方が気持ちいいよ。隣もオレの部屋だし、みんな寝てるし、聞こえないよ」
「ひ、あ、や、ああ!」

一織の吐き出す息が全部、オレの膝の裏に叩きつけられる。俯いた姿勢であえぐ声は、歌っているときみたいに高く響いて、一織の清潔な部屋を淫靡な空気で満たした。
2本の指の腹で裏筋を挟むように撫で下ろし、指の股にコツコツと先端を当ててやれば、待ちわびた直接的な刺激に、一織のものはいっそうぬめりを増す。

「うゃ、や、や」

絶頂が近いのか、一織は両手で俺の膝を抱えた。行儀悪く投げ出された両脚の間は、一織自身が吐き出し続けるぬめりでぐっしょり濡れている。床を汚してしまいそうなそれを掬うように、オレは左手で一織の下の膨らみに触れた。ぬめりは、もったりと重たくなったそれの裏側にまで達している。膨らみの裏側、おしりの穴との間のところを、立てた指先で叩くと、一織の声はいっそう高くなった。

「や!嫌、嫌です!」
「気持ちよくない?」
「嫌、……」

嫌、としか言わないのは、気持ちがいいんだろう。一織の両手の力が強くなり、オレの両脚にしがらめられた脚も、かくかくと揺れ始めた。
左手の指先は、おしりの近くを行ったり来たりしながら、右手では竿を緩やかに撫で続ける。あと少しの刺激が続くじれったさに、一織の腰がすこし浮いて、オレの右手のひらに押し付けるような動きをはじめた。

「も、もうっ、だめです、いや」
「いきたい?」
「いきたい……いきたい!」

焦らされて泣き出しそうな高い声で、一織が叫ぶ。平静を失った荒い吐息。今にも達しそうに質量を増した竿を搾るように、オレは右手に力を込めた。

「いっていいよ!オレの手の中に出して」

亀頭をつぶすみたいな乱暴な触り方も、先走りにぬめって強い刺激になる。一織はオレの膝に顔を填めたまま、ふー、ふーと荒く息を吐きながら、腰を上下させた。

「う、う、っ、く、う、あ、いく、いく」

一織の両手が、オレの左腕を掴む。不安なんだ、知らなかった景色がきっと今、一織の前に広がっている。

「一織……!」

抱きとめてやりたくて、思わず名前を呼んだ。
一織が、ひときわ強く、オレの右手に自分のものを打ちつける。

「うぁっ、な、なせさ……!」

オレの名前を呼びながら、一織の動きが止まった。びゅくんと、オレの手の中で、一織の熱が吐き出される。どく、どくと何度かそれが脈打つ間、一織はじっと息を止めていた。
どっと、一織の頭が、糸が切れたようにオレの胸にぶつかった。一織の両手が床に投げ出される。
腰が床に落ち着き、一拍遅れて、一織の胸が大きく動く。

「……っは、はー、はー、っ、げほ、げほ」
「大丈夫?!」
「っは、い……平気です……すみません、手……」

さっきまでと一転した、掠れた低い声で、一織がオレに詫びる。
一織の吐精を受け止めた右手からは、だくだくと、受け止めきれなかった白濁が床に零れていた。下に添えていた左手まで、どろりとした白濁にまみれている。

「大丈夫……もうちょっと、このままでいようか」
「はい……」

本当は、右手がぬるついて気持ち悪い。でも、肩で息をする一織の体を全身で受け止めるのは、気持ちがよかった。重なったところから、一織の汗ばんだ体の熱が、じっとりと伝わってくる。
自分の体にはなんの刺激も与えていないのに、何か言いたいような、何も言いたくないような、満ち足りた感覚が、オレを満たしていた。

「……さっき」

口火を切ったのは一織の方だった。

「さっき?」
「なんの用事だったんですか」

用事?
なるべく喉を使わないようにか、小さくつぶやくように問われて、記憶をたぐる。
用事……そうだ、この部屋に来た理由。

「忘れてた、オレのスマホの充電コードがなくなってて、代わりにあれがあったんだ。一織のかなと思って」

ぬるつく手でそれを示すのが躊躇われ、顎をしゃくる。一織が視界の端にオレの動きを捉えて、ドアの方を見た。

「夕方……六弥さんと何やら部屋で遊んでいたでしょう。その時……入れ替わったんじゃないですか」
「そっか。借りちゃお」
「そうしてください。……そんなことで、ノックもなしに、人の部屋を尋ねるなんて」
「起こしたら悪いかなって思ったんだよ」
「ひと声、掛けたらいいでしょう……寝ていれば、気づきませんよ」
「次はそうする!でも、一織も気持ちよかっただろ?」

途切れ途切れの一織の言葉を聞き終えて問いかけると、返事がない。

「一織?」

ふと、一織の体がさっきより重たく感じることに気づいた。

「もしかして、寝ちゃった?」

暗闇に慣れた目をこらすと、一織のまぶたはすっかり降りて、ふっくらと形の良い頬は、汗をはいたまま動かなくなっていた。
一織が、これまで知らなかったくらい気持ちよくなってくれたんだろうと分かって、胸が熱くなる。
一織の体の下で硬くなりはじめた自分のものをどうしようか考えながら、一織の体の下から体を抜いた。壁際に無造作に落ちていたボックスティッシュで手を清め、ぐずぐずの一織のものを拭うと、一織の鼻から小さく声がした。

「んむ……ぅ」
「寝てていいよ」

大人ぶってるけど、やっぱり子どもなんだな。
たまにはオレの方がお兄ちゃんなんだって思い知らせてやりたい。
部屋に戻ってタオルをとり、キッチンのぬるま湯で濡らして、一織のところへ戻る。すっかり精を吐ききって乾いたものを、濡れたタオルで丁寧に拭いた。パンツもパジャマも履かせてやりながら、思い出すのは、病弱だった昔のこと。風邪をひくたび甲斐甲斐しく世話を焼いてもらっていたオレが、こうして人に服を着せてやるなんて。誇らしいような気さえする。
でも、ベッドに連れて上がるのは無理かな。一織けっこう重いし。
床を拭き終えてから、再び部屋に戻り、オレは今度はクッションソファを運んできた。一織の体をソファに引き上げ、手触りのいい一織のタオルケットをかけてやる。

「おやすみ、一織」

目が覚めたらびっくりするだろう。怒るかな?喜ぶかな。
一織の朝の反応を楽しみにしながら、オレは一織の部屋をあとにした。

結局、翌朝の一織はいつも通りで、ソファクッションもいつの間にかオレの部屋に戻ってきていたし、あんなことはなかったのかな?なんて思ってしまうくらい普通に、日々は過ぎた。
オレの手の中に射精したことなんて忘れたような顔をしているけど、一織がちょっとオレから距離を置いているような気はする。
なんとなくのことでも、ずっと一緒にいればわかる。つい元気をなくしてしまう自分を励まそうと、オレはお気に入りのソファクッションに座って、貰ったファンレターを眺めていた。

「いつもありがとうございます。……明日は久々にオフかあ。何しようかな」

受け取っていたファンレターをお菓子の缶に収めて、眼鏡を外す。
ふと、控えめなノックの音が部屋に響いた。

「起きてますか」
「起きてるよ」

応じると、部屋の扉が押し開けられ、濡れ羽色の髪がひょっこり姿を現す。薄い水色のパジャマから、細い手足が突き出している。あの日と同じ色のパジャマから──。
いつもきりりと引き結ばれた唇は、頼りなさそうな甘えた声で、オレを呼んだ。

「七瀬さん」

少し赤らんだ頬。なにかを期待するような潤んだ瞳は、オレの目を見ない。

「ひとりで、できなくなってしまいました」

いつからこんなふうに、いたずらっぽい表情で、オレの部屋を訪ねてくるようになったんだろう?
オレが唾を飲み込んだのを見計らったように、一織が唇の端を上げる。
殺人的な微笑みをたたえて、一織がドアを後ろ手に閉める。
目が合った。
一織が口を開くのが、オレの目にはひどくゆっくりと映った。
七瀬さん、と一織が呼ぶ。

「あなたの手でいかせて……」

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