幼少期の写真にまつわるSS
●一部の一織
「んー、やっぱ一織が小さいころの写真は全部オレも映っちゃってるよなー」
「そうですね。兄さんと手を繋いでいる写真ばかりです。七瀬さんのところは、九条さんから一人で写っている写真の提供を受けたそうですが」
好評だった幼少期の写真企画は、前回写真のなかった一織、大和、環、壮五、陸にお鉢が回された。しかし環は生い立ちのために写真がないと言い、壮五と大和は二人で同調して、パス、と言い張った。結局、一織と陸の写真を使うこととなり、一織は三月が実家から持ってきたアルバムを、三月の部屋で確認している。
「へえ! マネージャーがTRIGGERとラビチャ交換したって言ってたやつか。家族捨てたとかとんでもないやつだなって最初は驚いたけど、あいつもやっぱ兄ちゃんなんだなー」
「兄さんも持っていますか、私の写真」
「ええ? 家族で撮ったやつとかなら……一織もオレの写真なんて持ってないだろ?」
「持ってます。兄さんの成人式と、この前二人でラジオに出させていただいた時の楽屋での記念写真と、それから……」
「待て待て待て! 何でそんなに持ってんだよ!」
「普通ですよ」
しれっと応える弟に、うーん、とすこし眉を寄せてから、三月は気を取り直して言った。
「……そういやこの前、超かわいいと思って保存した一織の画像あるぜ。父さんとアルバム見てて見つけたやつなんだけど……これ!」
三月が操作するスマートフォンの、やたらめったらに亀裂の走る画面を、一織も覗き込む。三月の手元に表示されたのは、目に涙をためて中学生の三月の脚にすがりつく一織の写真だった。
「消しませんか」
「えー! かわいいじゃん! これ、ちっちゃいころからことあるごとにオレにキスされてたから、急にキスされなくなって『なんでちゅーしてくれないんですかー』ってごねてる一織!」
「覚えてます! やめてください……!」
「オレも両親がああだったから、家族にはキスするもんだと思っててさ。中学入ってからこれ恥ずかしいことなんだって気づいて……」
「父さんと母さん、すごくラブラブですからね……。ちなみに兄さん、今でも酔うとキスしてやるって迫ってきますよ」
「え……マジ?」
「マジです。他の方にはやらないようなのでいいですが、逢坂さんが真似したら最悪の事態もあり得ますから、気をつけてください」
「最悪の事態?」
「四葉さんの、おそらくファーストキスが、逢坂さんに奪われます」
「ああー……気をつける……」
年上の相方に絡まれては愚痴をこぼしながら構ってやる、優しい末っ子メンバーを思い出し、三月は苦笑した。環は壮五の暴君ぶりに、意外に誠実に付き合ってやる。妹にするみたいに、世話を焼いてやる気分なのだろうか。
「あいつも兄ちゃんだもんなあ。妹の写真持ってないって言ってた。早く見つかると良いのに……」
「そうですね。そのためにも、私たちが有名になりましょう」
「おう!」
三月がアルバム画面を閉じると、待受の、七人の画像が表示される。IDOLiSH7の七人で映った画像を見下ろして、三月と一織は、それぞれに微笑んだ。