セカンド・ハッピーバースデー

【六弥ナギ】セカンド・ハッピーバースデー

ナギくんの誕生日前夜と朝の話です。


「ミツキ、少し早めに眠りますが、ワタシの分のケーキが残るようそのモンスターたちを監視いただけますか?」
「おう、いいぜ。つーか主役より先にケーキ食うなって叱っとくよ。明日朝早いんだっけ?」
「いいえ。ただ……」
ちらりとナギが時計を見やる。きょとんと大きな瞳を丸めた三月に、ナギは微笑んだ。
「わがままで、高慢で、愛すべき人のラブコールのために、7時に起きていなくてはならないので」
「ふうん……?ここなちゃんの再放送でもあんの?」
「ここなをあんな非道な人と一緒にしないでください」
首を傾げる三月に、おやすみなさいと頬を近づけ、ナギが部屋へと去っていく。
「まーたエアキスされた……あっちの文化なんだっけ、ケンネスさんにもされたな。ナギの兄ちゃんにはされなかったけど……」
頬をかいて眇めた瞳を、三月はゆっくり見開いた。それから、微笑みの形にゆるめる。
「ああ、なんだ」
ポケットからスマートフォンを取り出して、タイムゾーンの設定をタップすると、全てが腑に落ちた。
あの国へ向かった日、明け方から半日飛行機に乗ったのに、降り立っても日付が変わらなくて驚いたことを思い出す。
その国の日付が変わる時刻は、日本より7時間遅いのだそうだ。
「ふふ。かわいいやつ」
「みっきー!これもー食っていー?」
「ダメだっつったろ!ナギが食うまでお預け!腹減ったなら大和さんとコンビニ行ってきな」
「お兄さんの財布アテにすんのやめてくんない?」
「さっき酒切れたっつってたろ。ほら、行った行った」
「四葉さん、こんな時間に食べすぎるから朝起きられないんですよ」
「いおりんだって朝よえーじゃん」
「私は寝坊したことありませんので」
がやがやと騒がしいリビングの声は、きっとナギの部屋まで届いているだろう。
あの大きくて冷たい王宮では、こんなふうに喧騒のなか眠ることなんてなかっただろうに。
「なあ三月、ナギ、明日何時に起きるかな?明日っていうか今日だけど……」
「7時に起きるって言ってたぜ。なんで?」
「ナギ、ハグ好きだから、ナギより早く起きて一日中いっぱいハグしようと思って!」
「じゃあ、オレも7時に起きようかな」
「うん!ハッピーバースデー歌おう!」
「さっき歌ったじゃないですか。アンコールを求められすぎて、逢坂さんなんてソファで倒れていますよ」
「いいじゃん!何回歌っても。ナギ、前にナギ強化月間に日本に居られなかったの、すごい悲しんでたから」
「そうだなー。かわいい弟分に、お前はうちの子でもあるからなって言ってやらないと」
「今日の誕生日おめでとうは、大和さんが一番だったけど、明日はオレが最初かなあ」
「600万番目くらいかもしれませんよ」
「600万?ナギ、そんなに人と約束してるの?」
「まあ、国家規模のお祝いが、昨晩からSNSに届いていますからね。時差を考えれば、本番は朝でしょうし……」
察しのいい弟は、陸をせかして個室へ戻ろうとしている。きっと一織も朝は早く起きてくるつもりだろう。
弟分たちのいじらしい早起き計画に目を細めて、三月は壁にもたれた。
地球が少し回るたびに、いくつもの誕生日おめでとうがナギを祝う。
「愛されてんなあ、あいつ」
「ミツー、まだビール残ってたけど、飲むか?」
「飲む!あ、大和さん、明日7時に起きろよ」
「え?なんで?」
「なんでも!起きてこなくてもナギが叩き起すと思うけど」
「また布団にダイブされんのはちょっとなー。じゃあ、あと一本にしときますかね」
「おう!」
プルタブに指をかけて引くと、ぷしりと小気味いい音を立てて炭酸が泡立つ。
愛されるオレたちの弟に。
「乾杯!」
たくさんの誕生日おめでとうと、生まれてきてくれてありがとうを。
何度でも、君に。

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