キスおねだり可愛い選手権 3【大和編】 


「あれはレディの後ろ姿……レディの後ろ姿……」
『ナギ、マイク拾ってんぞー!』
『六弥さんは正統派王子の装いですね』
『すげー!ヤマさん美人じゃん!』
『ピッタリしたラインのドレスとは意外でした。後ろ姿ではよく見えませんが、大ぶりの羽根のイヤリングが目を引きますね』
『ウィシュボのそーちゃんのあれの、募金バージョンな』
『赤いもんな。なんかあれ、白雪姫のお后様みたい!ちょっと毒々しい感じ』
『確かに、大きく背中の開いた黒のドレスで、首元の羽もそんな印象だね。大人っぽい大和さんではファンシーな内装とミスマッチかと思いましたが、魔女めいた世界観が完成しています』
『これ期待できんじゃねえの』
「ヤマト、顔を見せて」
「……わかった」
『ヤマさん振り向くぞ』
『なにか我々が緊張しますね』
「ナギ……」
『これは……』
『これは……』
「これは……ヤマトです」
『ナギwwww超苦い顔してるwwww』
「睫毛のゴージャスな……ヤマトです……」
『二回言ったwww二回堂大和じゃんwww』
『兄さん、そんなに笑っては……何が失敗したんでしょう、眼鏡も縁なしで金色の弦、普段より雰囲気を和らげている感はありますが』
『髪型じゃね?ベリーショートで、まんまヤマさんじゃん』
『もみあげの編み込みかわいいよ!前髪も巻いてふんわりさせてるし!髪に真珠とかついてるのも、オレ達のライブに来てくれる子たちみたい!』
『でも、胸元が開いたドレスだと、胸板とか喉仏とか出ちゃうから。ナギくんの反応もわかるな』
『キレイにまとまった大和さんって感じだよな』
「ヤマト。すみませんがワタシは貴方にキスをねだれません」
「どの道罰ゲームでキスするけどな」
「Jesus……神はワタシを見放しました」
「この前神田でお参りしたじゃん。浮気者には厳しい神様なんだろ」
「ヤマトは?博愛主義のワタシはお嫌いですか?」
「お、ねだる気になった?」
「この衣装、踊れということなのでしょう?ワタシたちの逢瀬を楽しみにするレディのため、毒のリンゴも口にしてみせましょう」
「……ナギのそういうとこはすげーと思うわ。なあ、協力してやろうか」
「What?」
「お兄さんもさっき自分でびっくりしたんだけど。眼鏡取って目閉じると、そこそこ見れる顔になんだわ」
『眼鏡の弦をつまんで引き下げて……煽情的になりかねないポーズを、目を伏せることでビジネスライクな印象にする。やはり演技のプロですね』
「ナギがターゲットの回で、お兄さんにキスしてくれるなら、これ、外してもいいよ」
『は〜!?大和さん最低!スポーツマンシップ楽屋に置いてきたのかよ!』
『ヤマさんまじヤマさん』
『ナギくんにキスをねだるのは恥ずかしいのに、ナギくんの首に腕を回してしなだれかかりながらの上目遣いは恥ずかしくないんですね』
『ある意味キスをおねだりしていますから、企画意図からも外れていません。こんなルールの抜け道があったとは』
「Hm……他のメンバーが真剣にヤマトにキスをねだった以上、あまり気乗りしませんが」
『そうだよ、ナギ言ってやって!大和さんひどい!』
「メガネを取れば美人、マンガの王道です。男は王道に弱いもの。お引き受けしましょう」
『このオタクが!!!』
『三月さん落ち着いてください!こんな闇取引がまかり通るはずがありませんから!』
「じゃ、お兄さんがキスしたくなるような愛の言葉、囁いてくれる?」
「……ヤマトの露悪的なところ、嫌いではないですよ。どうしてそうひねくれてしまったのか、幼き日の貴方を抱きしめたいと思う日もありますが」
『大和さん、眼鏡外すと本当に美人さんだね!ちょっとドキドキしちゃう。オレの時は眼鏡掛けといてもらおう……』
『七瀬さんは眼鏡に衝突して失敗しそうですし、外して頂いては?』
『なんだよ。絶対掛けててもらう!』
「ヤマトは不思議な人です。大人びていて、けれど危うい。貴方を慰めたいと思うとき、人を愛することを知らなかった幼いワタシ自身を救ってやろうとしている気さえします」
『少しわかる気がします。私も、七瀬さんの行動に驚かされる時、七瀬さんをこうまで甘やかして育てた人は、七瀬さんを幼稚なまま自分に依存させたかったのか?と疑ってしまいます』
『一織だって甘えんぼじゃん!この前三月にうさぎのパンケーキ作って貰ってただろ!』
『私の場合は正当な報酬かメンタルの切り替えという目的があります!あなたのはただの欲望の充足じゃないですか。それを甘えと言うんです』
『ケンカすんなー。ヤマさん喋んねえな』
『環、止めて偉いぞ。陸も一織もあとでパンケーキ作ってやろうな。クリームチーズとメレンゲでふかふかにしてやるから、ナギたち見ようぜ』
「キスをして、ヤマト。貴方に愛を教えましょう。怯えなくていいのですよ、貴方もまた人を愛し愛されるために生まれてきた一人ですから」
「……もっと、可愛くねだってくれんじゃねーの」
「キュートなワタシがお好みですか?なら、貴方の大人のキスで、ワタシを無力な子どもにして」
『六弥さんの場数は本当にすごいですよね。アイドルとしてはいただけませんが』
『主導権を手放さないよね。ずっとそうしてきたみたいに場を支配する。さすがだよ』
「分かった。キスしてやるから、目閉じろよ。王子様」
「仰せのままに」
チュッ
『終了!大和さんまじふざけんなよ!』
「ナギ、さっきの約束忘れんなよ?」
「ワタシのキスは高いですよ。それに見合うパフォーマンスを期待しています」
『闇取引解散!買収禁止!』
『ナギくん、とりあえず戻っておいで』


「ナギおかえり!タキシード?すごくかっこいいよね!似合う!」
「サンクス。リクもこれから着替えるのでしょう?」
「えへへ、うん!かっこいい衣装だといいな!」
「陸くん、一織くん、行ってらっしゃい」
「はい。行きますよ七瀬さん」
「うん。あー緊張する、オレ初めてなんだよね」
「前回散々したじゃないですか」
「キスがじゃないよ!この企画でねだる側やるの。上手くできるかな」
「あの人、七瀬さんには甘いですから、大丈夫ですよ」
「そうかな?」

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