【同人誌サンプル】libido

【大和と千】libido

★2022/3/21 トプステ27 新刊★

◼️libido

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準備中

◼️大和と千 (ヤマ千、同軸リバ、ヤマ千・千ヤマ未固定 等)
◼️A5・62ページ
◼️会場頒布価格 400円

短編5本のまとめです。
どちらかというとヤマ千寄りかもしれません。
大和がずっと悶々としていますが、作者はハピエン厨です。

《収録内容》
◼️言わなければよかった
1ヶ月お試しで付き合っている大和と千が、サウナに行く話

◼️うつくしいおとこ
ヤマ千しに行くつもりの大和が、千さんの股間に女性器がある夢を見てしまう話

◼️Maybe you milk it (ヤマ千 R18)
大和が千に懇願して抱かせてもらう話 ※大和もすごく喘ぐ

◼️libido (リバ R18 ※詳細なエッチシーンは千ヤマ)
千に誘われ抱いてしまった大和が、千から逃げきれずリバセックスに溺れる話

◼️熱視線 (R18)
千さんを強引に押し倒した病み気味の大和が、楽屋で抜いてもらう話

※こちらはサンプルです。
※サンプルのため、途中で途切れる作品があります。


★ご注意★

サンプル内に成人向け表現がございます。
成人の方のみ、次ページをご閲覧ください。


◼️言わなければよかった

1ヶ月お試しでならいいですよ。
そんなことを言ったのは自分の方からだった。
煮え切らない態度でかわし続けて、いい加減僕を好きだって認めなよ、と楽屋で迫られ。
認めたからって、その先に何があるんだって話ですよ。と、冷たく応じた。
男同士で付き合うほど、あんたは俺のことを好きじゃないはずだ、とは言わなかった。
きっとこの人は、手に入らないことが怖いんだ。再会したものが手からすり抜けていくのが怖い。だから俺に執着しているだけで、俺が逃げないとわかれば、用はないはず──。
そうして、1ヶ月、お試しの付き合い、とやらを始めた。
「のぼせますよ」
「そうね」
白い額は真っ赤に火照り、無数の汗を浮かせている。フェイスタオルはすっかり濡れそぼって、そのやたらに削げた体を押し潰すように、へばりついていた。
「俺はもうちょっと居ますけど、先、出たらどうですか。倒れられても寝覚悪いし、百さんに合わせる顔ないんで」
「大和くんがいるなら、もうちょっといるよ」
「……じゃあ、あと3分……」
じっとりとまとわりつく蒸気に、鬱陶しそうにその人が熱く吐息する。体の中に溜め込んだ、どうしようもない熱を、あえぐように喉を開いて、吐き出す仕草。
5年前、汗ばむ背中を鬱陶しいと、見せつけるような眩しさに苛立った。その相手が、いま、少し離れた板の上で、細い背中をサウナの湯気に濡らしている。
濡れ尽くした真っ赤な体を見ていられずに、目を逸らした。逃げ場のない湯気が、小さな板張りの小部屋に充満する。
はあ、と、また千さんが息をついた。ほらみろ、やっぱり限界なんだろ、なんで出ていかねえんだよ……。
「期限区切るの、好きなの?僕は好きじゃない」
「あー、締切、次はいつなんすか」
「さあ?おかりんが知ってるよ」
「それ、後で苦しいの自分ですよ」
「さすが、言い出せずに家出までした子の言葉は含蓄があるね」
「喧嘩売ってんなら出てってくれます?」
「はあ……こんな暑くて狭苦しい場所に自分から籠るなんて、大和くんって」
「あんま余計なこと言ってると余計のぼせますよ」
千さんが、今度はこれ見よがしに嘆息した。人のサウナについて来といて、わざとらしく煽って、ほんと、こんな人の神経逆撫でしてニヤニヤするような人、なんで俺も……。
「大和くん、あと何分?」
「……まだあと2分くらいじゃないですか」
「ああ、そう……」
……無理しなくていいのに。
「……飽きたんで、もう出ます」
絞れそうに濡れたタオルを体に巻き付けて立ち上がる。と、千さんもふらつきながら立ち上がった。冷水で汗を流して、体を拭いて、浴室を出る。
熱い体を持て余して、千さんが、ぐったりと脱衣所の青いベンチに体を預けた。
「ちょっと休んだほうがいいですよ」
柔らかな白いバスタオルを、千さんの荷物から抜き取って、こんな大きい荷物を抱えて歩くような人じゃないのに、と、苦い気持ちが胸を掠める。タオルを投げかけると、千さんはきもちよさそうに汗を拭った。
「一生懸命な子、好きでしょ……」
だから何だ。
それ、俺に好かれたいって聞こえますよ。と応じれば、どうせこの人の思う壺だ。この人はきっと、俺を揶揄うためならなんでもする。何でもないんだ、俺のどんな言葉もこの人を刺激しない。この人は、俺を狼狽えさせる楽しさに、今だけ興味があるに過ぎない。
黙ったまま、冷たい水を紙コップに注ぐ。すっかりひしゃげたコップの内側に、俺がたとえば毒を混ぜても、この人は涼しい顔で飲み下して、じゃあまたね、と綺麗な言葉で俺を呪って死ぬんだろう。遺された俺が、百さんに、岡崎さんに、万理さんに、ソウやタマに……あらゆる咎を追って潰れた時、ようやく、嬉しそうに起き上がってみせる。
……なんて思うのも、俺の願望なのかもしれない。この人は、俺のためにそこまでするほど、俺を好きじゃない。俺だけ本気になったって、どうせいつか、捨てられる……。
「ああ、もう」
手の中のコップの水が溢れそうなのに気づいて、給水機のフックから手を離す。
「千さん」
「ありがと……はあ、こんなに汗かくの、ライブだけでいいな……」
やすい紙コップは、俺の体温で湿って、少しひしゃげていた。喉仏が上下して、水を体の内側へと運んでいく。千さんの、歌うための筋肉が、俺の渡した水を飲み干す。
「Re:valeの曲、ダンス激しいですもんね」
「この調子であっという間に三十路なんだよね。モモは50になっても踊れるだろうけど、僕は弾き語りとかにさせて欲しい」
「はは、まあ、Re:valeのダンスカッコいいってうちの奴らも盛り上がってるんで、後何年かは手本になってやってくださいよ」
「……君って、僕がモモのことを話すと、メンバーの話をするよね。癖?」
「は?……気のせいじゃないすか」
「リーダー、ちゃんとやってるよね」
「……髪。乾かしたほうがいいですよ」
「そうね……」
さっさと服を着て出て行こう。どうせ、今日までなんだ。
「ありがとうございました」
「何が?」
「お試しで付き合うってやつ。今日までなんで」
1ヶ月お試しで、と言ったのは、ちょうど30日前のこと。
今日が、1ヶ月目だ。
「……ああ」
千さんが、のそりと起き出す気配を、背中に感じる。ベルト穴に皮のベルトを通してデニムを履くと、サウナでほてったはずの体が、やけに冷めていくように感じた。
「今日で終わりか」
千さんが、ぺた、ぺたと、小さな足音を立てて、隣に並んだ。長い髪から水が落ちるのもいとわず、スキニーに足を通していく。
無言のまま、千さんが白いシャツをかぶる。タオルを肩に乗せて、濡れた髪をかきあげて。そのしぐさを見ないように、見ないようにと腕時計をていねいに嵌めた。かがみこんで、靴下を履く。
なぜか、上着を着る気にならなくて、千さんの方が先に着替えを終えてしまった。
またため息が、今度はかすかに、やわらかな笑いを含んで吐き出される。
「言わなければよかったのに。いつ始めたかなんて、覚えてないし……あと3ヶ月くらい付き合えたかも」
「あのなあ、俺は別に初めから、乗り気でも何でもなかったんで。分かったでしょ、付き合ったって、何も変わんないって」
「そうね」
千さんの常套句、上部だけを撫でてあやすような口癖が、俺のどこかささくれたところを逆撫でる。
「……じゃ、そういうことなんで」
ばさりと上着を翻して、袖を通す。
「うん」
千さんの微笑みが、顔を見なくても伝わってくる。
「じゃあまたね、大和くん」
俺だけが、あんたを忘れられないという咎を負わされて、その部屋を出る。
あんたも、めちゃくちゃに傷付けばいいのに。いつまでも乾かない傷を、俺のせいで抱えて欲しい。けれどそんな傷すら、あの人は俺を揶揄う材料にしてしまうだろう。
「ああ、クソッ」
せめて、あの鬱陶しいほど白いシャツまで、濡れた髪のしずくが滲みこむように願った。

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