【同人誌サンプル】libido

◼️Maybe you milk it

「う……っ、あ、はっ、大和くん、強すぎない? 手……」
「あ……っ、す、いません、痛いですか」
「いや、っ、気持ちいいよ……いつもこんなに、きつくしてるの」
「んっ、はぁ、ぁ、まあ、そっ、すね……ッ」
鼻から抜けるような、千の高い声が、大和の耳朶を撫でる。手のひらに包み込んだ千の長いものが、少しずつ、大和の手を濡らした。千の手を光らせる大和のものより、吐き出す粘液の量が少ない。
(千さん、汁少ないな……強く擦ったら痛いか……?)
「何考えてるの? 上の空」
千の白い指が、大和の余った皮を引き下ろし、亀頭を押しつぶす。指先でにじりながら、耳元に口を近づけられ、大和は肩を上げて俯いた。
「ん、やっ、なんでも、……ッ、そこ、やめてください、……」
「どっちを? 気持ちよさそう。ビクビクしてる」
「言うなっつったんだよ……っ、あ」
「恥ずかしがらなくていいじゃない。ふ、っ、僕も気持ちいい……」
大和の胸の先を爪で弾いて、千が笑みを浮かべる。汗をにじませた額は、熱く火照って、大和の肩に擦り寄ってくる。
「ね……?」
びくびくと、大和の肩の上で、千が薄い肩を跳ねさせた。声を抑えて、けれど体はぐっしょりと汗に濡れている。まばらに散った銀の髪を、跳ね除けることすらせずに、大和に体を預けていた。
(……本当に、気持ちいい、んだな)
ぞくぞくと、抑えられない興奮が、大和の心臓を早く打たせる。もっと、もっと高みにこの人を追い立てて、同じところで飛び降りたい。高揚と快感のまま、千の耳に舌を伸ばすと、千もまた、大和の首筋を唾液で濡らした。熱く湿った、舌のざらつきが、首筋を総毛立たせる。
「ぅアッ……っ」
大和の、湿った吐息を耳に押し込まれ、千は微かに身じろいだ。大和が、声をオクターブ高く跳ね上げ、身を捩って逃げようとするのを、体重をかけて引き留める。
大和が千にしがみつき、必死に舌を動かすたびに、千の内側がざわついた。もっとこの子が欲しい。僕の手でどこまでいくのか、見てみたい。大和の胸に爪を立てた。
「ぁ、ん、……千さんは……んなこと、しなくて、いい、んで……はぁ」
「したいんだよ」
「んっ……ん」
耳の奥までじゅぶじゅぶと舌で埋めようとするのは、千の中に自分を注ぎ込みたいからなのか。
汗の味に、大和も今、自分の体液を味わっているのかと、暴きたててやりたい気持ちになる。
千の好奇心が、大和の胸先をくすぐって、舐めて、大和の猛りを煽る。大和は悔しそうに頬を歪め、千のものを握る手の動きを速めた。
「あっ、あ……はぁっ、うまいね……」
「ッ、は、んあッ! そこ、本当にやばいっ……」
「やばくていいんだよ、こういうのは……」
「んあぁっ」
ちゅう、と千の唇が耳たぶをはみ、舌先で耳の外縁をなぞる。耳穴の中をもったいぶってくすぐる舌の動きから、首を振って逃れると、目が合った。
み空色の澄んだ瞳に、情欲が、薄氷のように艶を張る。
汗だくで微笑む顔を、ずっと、手に入れたかった。この腕の下に組み伏せて乱して、俺を見てくださいと縋ってみたかった。
「んむっ……、ふぅ……ん……」
強引に口付けて、口腔に舌を押し込む。千が満足そうに、鼻から熱い息を吐いた。千の内側の体温を貪って、千のものを手の中で支配して……自分も、千と同じように、濡れた瞳をしているのだろうか。
互いの体の間で、濡れた音が次第に激しさを増す。千が耐えかねたように唇を離した。
「ねえっ、……いっちゃいそう」
「あ、っ、俺も、です、ッ、……出そッ……」
「はぁっ、あ……あぁ、……ッ!」
「ウッ……!」
息を詰め、互いに動きを止める。一際太く大きく、手の中で張り詰めたものに、ぞくりと背中が粟立った。勢いをつけて散った白濁が、大和の腕や腹にかかって、滴る。大和もまた、千の手の中に、どろついた粘っこいものを吐き出していた。
(千さんの……)
自分の手の中で、今まさに力を失いつつあるものを、より強く握り込む。
「ぅあっ」
千が、美しい髪を乱れさせて、大和の胸に頬を預けた。しなだれかかってくる体を受け止めて、大和も細く喉を開いた。
「あ……ぁ……」
「はぁ、……大和くん、力、強いよ」
千の顔は見えない。銀のつむじの向こうに、頭皮がほの赤く色づいていて、どくんと強く心臓が打つ。千にも聞こえただろう。
「あ……っ、すいませ」
「いいけど……はぁ……すごいね。どろどろ」
くすくすと肩を揺らして、千が手のひらを広げて見せる。千の手の中には、千が吐き出したものよりずっと濃い精子が溜まっていた。
手のひらに溜まったものを、指を折って握り込んで弄ぶ。黒いマニキュアを、白くにごった精液がよごした。千の指先に触れられている液体が、自分自身のように思えて、余計に鼓動が速まっていく。
「……あんま見ないで……」
「見て欲しそうな顔をしてたよ」
「してませんよ……」
「そう? ……はぁ、疲れた……」
手のひらに溜めた精子をどうしていいのかわからない風で、千は手のひらを上向けたまま、羽毛布団に体を沈める。でもティッシュを取りに動くのはだるいし、シーツにもこぼしたくないし、という気だるい葛藤が透けて見え、思わず頬が緩んだ。千がため息をつき、細く白い脚を組む。ワインでも揺らすような仕草で、けれど手には大和の精液を持て余している。……笑っている場合ではなかった。千の見せる涼しい顔とシチュエーションの釣り合わなさに、また下腹が熱を帯び始めてしまう。
「ティッシュ、どこですか?」
「ベッドのそばには置いてないんだよね。ダイニングのテーブルか、キッチンになら」
「マジか……このまま歩いたら、どっかで垂れそう」
想像したのか、千が嫌そうに眉を寄せる。千が普段ベッドで性処理しないのかと思うと、いま精を吐き出したばかりのところが、頭をもたげ始めた。
さりげなく脚を引いて、にわかに起こった興奮を隠す。
「探してきます」
「垂れない? それ……」
「え? ……あ、まあ……」
千が、それ、と言って、大和の腹部に視線を落とした。見下ろしてみれば、大和のものよりいくらか水っぽい千の物が、へそに溜まって、溢れそうになっていた。
「……はあ」
千のため息が、さっきよりも大きくなる。神経質そうな薄い唇は、暖房をつけた部屋でみだらな行為にふけったせいで、すこしかさついていた。
ぼうっと、千の剥けそうな唇の皮を、千の舌が湿らせるのを見ながら、何か言おうとして口を開き……。
「はは、口にでも出してりゃ、困らないんすけどね」
大和は、口を滑らせた。
(……はっ?)
「あっ、いや、……あー……忘れてください」
舐めて欲しい。飲んで欲しい。千の寝室に籠る精子の匂いに、脳が思考を手放していた。欲求のままに口を転がり出てしまった言葉は、もう取り返すことはできない。
「……そうかもね」
「はっ?」
「大和くん、僕の髪、持ち上げて」
「え? は、……え? えっ?」
「まあ、自分のだし……気持ちは良くないけど、どんな味がするか、興味はあるよね」
「は?」
「早く」
焦れたように、千が促す。
「あ……や……」
恐ろしいほど整った顔をした千は、何を考えているのかわからない。微笑みも、屈辱に頬を歪めもせず、裸のままで大和の腿を跨いだ。
「勃ってるね」
「そ、れは、……さっきの名残で……」
「若いな。まあ、勃っててもいいけど、ちゃんとお腹に力込めてね。こぼさないように」
「え……あ……」
千が、頭を振って、豊かな銀髪を背中に流す。肩にいくらか残った髪が、天女か何かの纏う天上の衣類にも見えて、それなのに、さっき吐精したばかりの赤いものを、足の間にぶら下げていて……。
ふう、と、千が吐息した。
千は、大和の上で身をかがめ、臍に唇を近づけている。首をかすかに傾げて、髪が肌に落ちないように、透き通った瞳を大和の腹部に定めて。
いままさに、そこに吐き出された白濁に、吸い付こうと……。
「いや! いいです! 俺が……俺が、その、それ、受け取るんで。千さん、ティッシュ探してきてください……」
「……それでもいいか」
「は、い……」
千が体を離し、いつのまにか早鐘を打っていた心臓が、鎮まっていく。ほ、とため息をつけば、差し出した手のひらに、千が手を乗せてきた。にちゅ、と、空気のつぶれる音。
手のひらをなすりつけるような仕草で、乾き始めた精子を渡された。
千の指先に、自分の漏らした白濁が、乾いてこびりついている。
「……行ってくるけど、行かないでね」
「はい?」
つぶやいて、千が立ち上がる。裸のままでもスリッパは履くらしい。汚れた手でどうドアを開けるか迷い、肘の内側をドアノブに絡める。仕草の一つ一つが艶かしく見えて、手に自分の精液を溜めて好きな人のベッドでティッシュを待つ、とかいう良くわからない状況でも、大和の股間は萎えようとしない。
(……最悪だな)
ついさっき、あの人の手に全て叩きつけたばかりなのに。まだ、何かを吐き出そうとして、ぐずぐずと勃起を続けている。あの人の内側にいちばんに入り込んで征服したい。熱に熱って赤らむ肌を、俺が舐めたい。悪し様に言って遠ざけたものが、本当は欲しかったんですと縋っても、その人は、知ってるよと抱き止めて笑ってくれるだろう。
都合の良い妄想に、目を閉じて身を委ねていると、布が床を擦る音がした。悠然と滑るような足音。
「寝てるのかと思った」
「こんな状況で、寝られるわけないでしょ……」
「たしかに」
笑いを噛み殺すような、ふ、という吐息にすら、先程の行為が思い出される。
こんなふうに抱き合うことになったのは、自然な成り行きなどではなく。大和の方から懇願した。
あんたに触りたいです。多分ずっと、あんたを見てると、……たまらなくて。
反吐でも吐くように苦しげに告げた大和を、千はあわれに思っただろう。慈愛にも見える表情で、ベッドに行こうか、と誘った。
顔を上げた大和は、神に御手を差し伸べられた教徒のような表情を浮かべていただろう。
美しい彫刻のその手は、救いもつき放してもくれないのにと、自分の期待を恥じる大和の表情を、千はただ見ていた。
ベッドの脇で服を脱がされ、キスはしたいかと訊かれて、したいと答えた。そうだねとキスをされた。合わせた唇の間から、なんでもないことのように舌が滑り込んできて、押し倒して服を脱がせた。そこからはもう、夢中だった。
千が、ボックスティッシュに詰め替えて使うような、ビニール袋入りのティッシュを、剥き身のままで渡してくる。たったいま割いたらしい、パンパンに紙の詰まったその切れ目は、少し裂けすぎて、側面の半ばまで傷を広げていた。白い中身を取り出して、手を拭い、腹を拭う。夢のような時間が覚めてしまう。
「……拭いたら、シャワー浴びようよ。湯船に浸かっても良いけど」
「いや、流石にそこまでは……」
「なら、シャワーだけ。そのまま寝たくないでしょ」
「帰って浴びますよ」
「みんながいる寮で?」
「……お言葉に、甘えます」
「うん」
寮では、スリッパは履かない。スリッパを履かされるのも、はだかのままで風呂へ連れて行かれるのも、誰の肩にも肩を預けられないのも、漂う清涼な緑の香りも。何もかもが、いつもと違う。千の家の空気だ。
脱衣所を抜けて、浴室の床を踏むと、少し温かい。さっき部屋を出たときに、暖房でも入れたのだろうか。
千のさりげない気遣いなのか、それとも千の入浴前の習慣なのか。千の暮らしの一部に混ぜ込まれていく気まずさに耐えかねて、息を吸う。
「あの、……やっぱ俺、あとで一人で浴びるんで」
「精液臭い体で家にいられても困る。今浴びなさい」
千の手がシャワーのノズルを大和に向ける。ホテルでしか見かけないような、頭から浴びるシャワーヘッドと、手に持つシャワーヘッドとが、壁から二つのびていた。これも、寮にはない、千の暮らしの、千の家の持ち物。
温水を胸に受け、洗い落とされるのに身を任せる。意外にも千は甲斐甲斐しく大和の体を手で洗った。臍に指先をさしこんで、くすぐるように、精液の残滓を掻き出す。
「っ、ふ……」
「くすぐったい?」
「まあ、多少は……あの、自分で洗うんで」
「触らせてよ」
千の細く薄い手が、大和の胸筋のふくらみを撫で、乳首を掠める。堪えようとした声が、噛み締めた歯の間から漏れた。
「うっ……」
千の切れ長の瞳が、ちらりと大和を見上げて、また大和の体に落とされる。千の手が体を撫でるたび、硬さを増していくところに、気づいていないわけではないだろうに。
千が手のひらを合わせて、ボディーソープをすこし泡立て、大和の体に伸ばしていくのを。大和は、なすすべもなく立ち尽くしたまま受け止める。ミルクの匂いのするソープを、大和の胸の上で、千が泡立て始めた。
「はっ……ん、っく」
手のひらが、なんの他意もなさそうなそぶりで、腰や尻をなだらかになぞる。尻の間も、陰嚢の裏までも洗われて、とうとう立っていられなくなった。
膝をかすかに折って、湯船に手をついたとき、しゃがみこんで足をなぞる千の鼻先に、大和のものが突き出される。
大和の足の指の股を、爪の先でやさしく擦り上げながら、千が、頬を緩ませた。
「……僕は、さっきもイッたし、もう出ないんだけど」
水道を捻り、手を洗って、シャワーを手に取る。
「君は、僕に触りたいんだよね?」
千がシャワーを向けた先は、大和の先端。猛ったものを、温い湯でばたばたと叩かれ、腰が跳ねた。
「あぁっ!」
「……大和くんの番だよ。僕の体も洗ってくれる?」
いつもの涼しい微笑ではない、楽しくて、どこまでいけるか試したいと願う、強い瞳の煌めき。息をのんで、大和は千に抱きついた。ボディーソープにぬるつく体を合わせて、泡を千の体に移していく。
太く張り詰めたものが、千の腿に当たる。ゆっくりと立ち上がると、それは千の尻のあわいに押し当たり、千の小さく薄い尻たぶを持ち上げた。
千が取り落としたシャワーが、床でのたうちまわっているのに、強く打つ心臓の音で、何も聞こえない。
ず、と、腰を前後させて擦り付ける。千は拒まず、少し体を寄せてきた。
千の腿に手をかける。薄い肉に指を食い込ませて持ち上げても、千は咎めない。
片手にボディーソープを取って、千の後ろに、手を回す。千はやはり拒まず、大和の首に、手を回した。
さあ、どうする? カチンコの前で、役者の千に、次の仕草を待たれているような気持ちになる。ここには、裸の自分と、裸の千しかいないのに。
指を押し込んだ。かたく閉じたその場所は、信じられないほどの熱さで、大和の指を迎え入れる。
夢中で口づけると、千の手が、大和の後頭部を撫でた。ばしゃばしゃと乱れるうっとうしいシャワーが、大和のほおを叩く。
よかった。泣いてもばれない。
口づけを深めながら、じっくりと、千の体に指をすすめた。
浴室中のミルクの匂いが、甘だるく大和を酔わせる。初めからこうするつもりだったのかと思うほど、千が自分に向ける視線の答えみたいに思えた。お腹いっぱいかわいがってあげる、弄んであげる、僕のかわいい子。
それでもいいと思った。
自白のように千を愛した。千は、宣言通り、絶頂はせず、けれど大和の仕草一つ一つにかすかに感応して、時折高い声を漏らした。
いつの間にかシャワーを止めていた千の余裕に煽られて、怒りや悔しさをぶつけるように、大和は、千を抱いた。

「なんで、させてくれたんですか」
行為のあとで、シャワーを浴び終え、ぐったりと疲れ切った千に、もう終電ないよ、と囁かれ。口実に甘えて、毛布を借りた。千に命じられ、隣で眠る羽目になり、眠れないだろうと思ったのに寝落ちてしまった。朝起きると、千は既にベッドを離れて、食事の支度を整えていた。
何もかもが気まずくて、食卓に腰を下ろしても、千の顔が見れなかった。
罪悪感に追い立てられ、あきらかにまずいことを口走る唇が、止められない。
「同情? そんなに俺、飢えて哀れに見えました?」
千のベッドで眠り、千にあてがわれたシャツを着て、千の準備した朝食を、千の家で食べる。そんな施しを求めて見えたのだろうかと、そういう人じゃないと思いながらも、口に出さずにいられなかった。声に出して否定してほしい。気持ちよかったと、昨夜のように言ってほしい。僕も君がほしいと。
千は戸惑い、言葉に詰まる。
「いや……そうじゃなくて」
否定を口に上らせながら、けれど、上手い言葉を見つける引き出しがどこにあるのかわからない風で、髪を耳にかけた。
「……冷めるよ」
千がスプーンを動かして、スープを口に運ぶ。黄緑色にミルクを垂らした、えんどう豆のスープ。
冷めるのが、あたたかく湯気を立てるスープなのか、千の気持ちのことなのか、そのどちらもか、大和にはわからなかった。
やっぱり、差し出された手は、救いも、つき放してもくれなかった。

★続きは冊子でお楽しみください★

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